英国で「サプライチェーン・生産管理エグゼクティブ」という役職の求人が見られます。これは、生産と供給網を一体で管理する人材の重要性が高まっていることの表れです。本記事では、この背景と日本の製造業への示唆を解説します。
「生産」と「サプライチェーン」を一体で捉える職務
先日、英国の人材紹介会社のウェブサイトで、「Supply Chain and Production Management Executive(サプライチェーン・生産管理エグゼクティブ)」という役職の求人情報が掲載されていました。これは単なる一つの求人情報ですが、現代の製造業が求める人材像の変化を象徴しているように思われます。
従来、日本の製造業では「生産管理」は工場の生産計画や工程管理を担い、「サプライチェーン管理」は原材料の調達や製品の物流を担う、というように機能が分かれているのが一般的でした。しかし、この役職名は、これら二つの領域を横断的に管理し、最適化する役割が求められていることを示唆しています。つまり、工場の中と外を分断せず、需要予測から調達、生産、在庫管理、物流までを一気通貫で捉える視点が重視されているのです。
なぜ今、両者の連携・統合が重要なのか
生産とサプライチェーンの連携強化が求められる背景には、いくつかの要因が考えられます。第一に、グローバルなサプライチェーンの複雑化と不確実性の増大です。地政学的なリスクや自然災害、パンデミックなど、予期せぬ供給網の寸断はもはや常態化しています。このような状況下では、調達の状況がリアルタイムで生産計画に反映され、また生産の進捗に応じて物流計画を柔軟に変更するといった、迅速で一体的な対応が不可欠となります。
第二に、顧客ニーズの多様化と短納期化への対応です。多品種少量生産やマスカスタマイゼーションが進む中で、顧客の注文情報をもとに、即座に生産計画を組み、必要な部品をタイムリーに調達し、製品を迅速に届けるという俊敏性(アジリティ)が競争力の源泉となります。生産部門とサプライチェーン部門がそれぞれ部分最適の計画を立てていては、このスピード感に対応することは困難でしょう。
そして第三に、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展です。ERPやSCM、MES(製造実行システム)といったITシステムが進化し、部門間でデータを連携させることが技術的に容易になりました。これにより、勘や経験に頼るだけでなく、データに基づいた客観的な意思決定によって、サプライチェーン全体の最適化を図ることが可能になってきたのです。
日本の製造業における現状と課題
日本の製造業の現場を鑑みると、依然として生産管理部門と調達・物流部門が独立して機能しているケースは少なくありません。それぞれの部門が独自のKPI(例えば、生産部門は「生産効率」や「稼働率」、調達部門は「購買コスト削減」)を追求するあまり、結果として会社全体の利益を損なう事態も起こり得ます。例えば、調達部門がコスト削減のために大量発注した部品が、生産計画の変更によって長期滞留在庫になってしまう、といったケースです。
こうした部門間の「サイロ化」は、情報の流れを滞らせ、意思決定の遅れや歪みを引き起こす原因となります。欧州で見られるような生産とサプライチェーンを統合した専門職のニーズは、こうした組織の壁を越えて全体最適を追求する必要性の高まりを物語っていると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の求人情報は、日本の製造業にとっても重要な示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。
1. 職能の再定義と人材育成
「生産は工場の中、サプライチェーンは工場の外」という固定観念を見直す必要があります。生産工程の知識と、調達・物流・需要予測といったサプライチェーン全体の知識を併せ持つ人材の育成が、今後の重要な経営課題となるでしょう。ジョブローテーションなどを通じて、双方の業務を経験させることも有効な手段です。
2. 組織横断での全体最適の追求
経営層や工場長は、部門ごとの部分最適に陥らないよう、サプライチェーン全体を俯瞰したKPIを設定し、組織を導く必要があります。例えば、個別のコスト削減だけでなく、「キャッシュフロー」や「在庫回転率」、「リードタイム」といった全体最適を示す指標を重視することが求められます。
3. データ連携基盤の整備
組織の壁を越えるためには、まず情報の壁を取り払わなければなりません。販売情報、需要予測、生産計画、在庫状況、サプライヤーからの納期情報などを、関係部署がリアルタイムで共有できるIT基盤の整備は、連携を促進する上で不可欠な投資です。
すぐに組織を大きく変えることは難しいかもしれません。しかし、例えば生産計画会議に調達や物流の担当者も参加して意見交換を行う、あるいは特定の製品で部門横断の改善チームを立ち上げてみるなど、小さな連携から始めることは可能です。自社の製品がお客様に届くまでのプロセス全体を見渡し、どこに連携のボトルネックがあるのかを洗い出すことが、競争力を高めるための第一歩となるでしょう。


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