グローバルなメディア企業、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーが英国で「プロダクション・マネジメント」のインターンを募集しています。この一見、製造業とは無関係に思える求人から、私たちは生産管理という仕事の普遍的な本質と、今後の日本の製造業が採り入れるべき視点を見出すことができます。
エンターテインメント業界における「生産管理」
先日、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーがロンドンで募集を開始した「プロダクション・マネジメント」のインターンシップが、私たちの目に留まりました。製造業に携わる者にとって、「生産管理」とは工場の生産計画、工程管理、品質管理、原価管理などを通じて、QCD(品質・コスト・納期)を最適化する重要な機能です。しかし、映画やテレビ番組を制作するメディア企業における「プロダクション」とは、物理的な製品ではなく、映像コンテンツそのものを指します。
ここでの「プロダクション・マネジメント」とは、企画段階から撮影、編集、そして完成に至るまでの一連の制作プロセスを管理する役割を担います。具体的には、プロジェクトの予算管理、スケジュール調整、スタッフや機材の手配、関係各所との折衝など、多岐にわたる業務が含まれると推察されます。つまり、有形のモノを作る製造業とは対象が異なりますが、限られたリソース(人、モノ、金、時間)を駆使して、定められた納期とコストで、一定の品質を持つ成果物を生み出すという点において、その本質は我々の知る生産管理と何ら変わるところはありません。
製造業の生産管理との共通点と相違点
このメディア業界の事例と、我々が日々向き合っている製造業の生産管理を比較すると、興味深い共通点と相違点が見えてきます。
共通点は、前述の通り「QCDの達成」という目的です。映画制作における品質は監督の芸術的ビジョンや観客の満足度であり、コストは制作予算、納期は公開日です。この三者を高いレベルでバランスさせる手腕が求められる点は、工場の運営と全く同じです。また、多くの専門家(監督、脚本家、俳優、撮影、音響、美術など)をまとめ上げ、一つのゴールに向かわせるための高度なコミュニケーション能力と調整力が不可欠である点も、設計、開発、購買、製造、品質保証といった多くの部門と連携する製造現場のリーダーに求められる資質と重なります。
一方で、相違点も明確です。製造業の多くが、標準化されたプロセスを通じて同一仕様の製品を繰り返し生産する「量産」を基本とするのに対し、映画制作は毎回異なる製品をゼロから作り上げる「一品生産」のプロジェクト型であることが大きな違いです。関わるスタッフも、作品ごとに集められる専門家集団であり、流動性が高いという特徴があります。これは、固定化された組織と設備で継続的な生産を行う一般的な工場の姿とは異なります。
プロジェクトマネジメントとしての側面
この相違点こそが、私たちが学ぶべき点を含んでいます。メディア業界のプロダクション・マネジメントは、本質的に「プロジェクトマネジメント」そのものです。毎回異なるゴール、異なるチーム、そして不確実性の高い環境の中で、計画を立て、実行し、問題を解決しながらプロジェクトを完遂させる能力が問われます。
日本の製造業においても、新製品の立ち上げ、生産ラインの再構築、工場の移転、あるいは大規模な改善活動など、プロジェクト型の業務は数多く存在します。しかし、日常の定常業務に追われ、こうした非定常業務を体系的なプロジェクトマネジメントの手法で管理できている現場は、必ずしも多くないのが実情ではないでしょうか。専門性の高い多様な人材を一時的に集め、短期間で成果を出すという点において、彼らの手法から学ぶことは多いはずです。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例は、日本の製造業に対していくつかの重要な示唆を与えてくれます。日々の業務改善もさることながら、少し視野を広げ、自社の業務を見つめ直すきっかけとして捉えることが肝要です。
1. プロジェクトマネジメント能力の再評価と強化
製造現場においても、生産管理の担当者や技術者は、より強くプロジェクトマネジメントのスキルを意識すべきです。特に、多品種少量生産やマスカスタマイゼーションが進む中では、個々の受注や製品開発が「ミニ・プロジェクト」の様相を呈してきます。曖昧な状況下でゴールを定義し、チームを率いて計画を遂行する能力は、今後の現場リーダーにとって不可欠なスキルとなるでしょう。
2. 専門人材の流動的な活用
映画制作のように、プロジェクトごとに最適な専門家チームを編成するという考え方は、硬直化しがちな組織運営へのヒントとなります。社内の人材だけでなく、外部の専門家やパートナー企業を柔軟に巻き込み、課題解決にあたるアジャイルな組織体制の構築は、変化の速い時代を勝ち抜くための一つの鍵となります。
3. 「生産管理」の概念拡張
「生産管理」という言葉を、単に「モノづくりの管理」と捉えるのではなく、「価値創造プロセスの管理」と広く捉え直す視点が重要です。対象が有形物であれ、無形のサービスやコンテンツであれ、リソースを最適配分して価値を生み出すという活動の本質は同じです。この普遍的な原則を理解することで、自社の業務をより高い視点から俯瞰し、本質的な改善につなげることができるはずです。


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