シャネルによるスイス時計製造会社への出資 — 高級ブランドのサプライチェーン戦略から学ぶ

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高級ファッションブランドのシャネルが、スイスの独立系時計製造会社「クロス・マニュファクチュール」の株式を取得したことが報じられました。この動きは、ブランドの根幹を支える製造能力を自社グループ内に確保しようとする、高級時計業界における垂直統合戦略の一環と見ることができます。

シャネルがスイスの時計製造会社へ少数株主として出資

報道によれば、シャネルはスイスの時計製造会社クロス・マニュファクチュール(Kross Manufacture)の株式30%を取得し、少数株主となりました。クロス・マニュファクチュールは、ユニークなデザインで知られる自社ブランド「クロス・スタジオ」の時計を製造する一方、他社ブランド向けの時計製造も手掛ける、高い技術力を持つ企業です。今回の出資は、シャネルが時計事業における製造基盤、特に複雑な機構を持つムーブメントや部品の生産能力を強化する狙いがあると考えられます。

背景にある高級ブランドの垂直統合戦略

高級時計業界では、大手ブランドやコングロマリットが、ムーブメント(時計の心臓部である駆動装置)や部品を製造する専門メーカーを傘下に収める「垂直統合」の動きが長年続いています。かつては、多くのブランドがETA社(スウォッチグループ傘下)のような大手ムーブメントメーカーから供給を受けるのが一般的でした。しかし、供給が不安定になった時期を経て、各社は基幹部品の安定確保と品質管理、そして独自技術の囲い込みを目的として、製造能力の内製化を加速させてきました。

自社でムーブメントから一貫して製造できる体制を持つメーカーは「マニュファクチュール」と呼ばれ、その技術力と信頼性はブランド価値を大きく高める要素となります。シャネルの今回の動きも、この大きな潮流に沿ったものであり、時計事業における競争優位性を長期的に確保するための戦略的な一手と言えるでしょう。

日本の製造業から見た視点

この事例は、日本の製造業、特に高い技術力を持つ部品メーカーや組立工場にとっても示唆に富んでいます。完成品メーカーが、自社の製品価値を左右する重要な技術や部品を供給するサプライヤーとの関係を強化し、場合によっては資本参加を通じて囲い込むという戦略は、自動車や電機など他の業界でも見られる動きです。これは、サプライヤー側から見れば、特定の顧客への依存度が高まるリスクを伴う一方で、以下のような利点も考えられます。

  • 経営の安定化:大手ブランドの傘下に入ることで、安定的かつ長期的な受注が見込める。
  • 開発資金の確保:研究開発や設備投資に必要な資金調達が容易になる。
  • ブランド価値の向上:世界的なブランドの製品を手掛けることで、自社の技術力への信頼性が高まる。

クロス・マニュファクチュールのように、OEM/ODMとして他社ブランドの製造を請け負いつつ、自社ブランドも展開するという事業形態は、日本の技術力ある中小企業が目指すべき一つのモデルかもしれません。他社への供給で安定した収益基盤を築きながら、自社製品で技術力と独自性を市場に問い、企業価値を高めていくというバランスの取れた戦略です。

日本の製造業への示唆

今回のシャネルの出資事例から、日本の製造業関係者が自社の経営や事業戦略を考える上で、以下の点を再確認することができるでしょう。

1. サプライチェーンにおける自社の位置づけの再評価
自社の技術や製品が、顧客のサプライチェーンにおいてどのような重要性を持っているかを客観的に評価することが不可欠です。代替が難しい「キラー技術」を持つことは、取引における交渉力を高め、より安定した関係構築につながります。

2. 資本提携を含む多様なアライアンスの検討
M&Aや資本提携は、単なる「買収」や「身売り」ではなく、事業を成長させるための戦略的選択肢の一つです。自社の技術を正当に評価し、共に成長できるパートナーとの連携は、グローバルな競争環境を生き抜く上で有効な手段となり得ます。

3. 技術力の可視化とブランド構築
優れた技術を持っていても、それが外部から認識されなければ価値につながりません。クロス・マニュファクチュールが自社ブランドを持つように、BtoBの事業を主軸としながらも、自社の技術力を示す象徴的な製品やサービスを持つことは、企業の価値を高め、新たな事業機会を創出するきっかけとなります。

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