バングラデシュの家畜密輸ニュースから学ぶ、サプライチェーン管理の死角

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先日、バングラデシュの国境警備隊がインドからの密輸牛を押収したというニュースが報じられました。一見、日本の製造業とは無関係に思えるこの出来事ですが、グローバルに広がるサプライチェーンの脆弱性やトレーサビリティの重要性を再考する上で、示唆に富む事例と言えるでしょう。

遠い国の出来事と捉えるべきではない背景

報道によれば、バングラデシュ国境警備隊(BGB)が、インドから国境を越えて不正に持ち込まれた牛を押収したとのことです。こうした密輸は、両国間の価格差や需要、そして正規の検疫や関税を回避しようとする経済的な動機から発生していると考えられます。これは、単なる一地域の特殊な問題ではなく、正規のルートを外れた「非公式なサプライチェーン」が現実として存在することを示しています。

この構造は、私たち製造業が向き合う課題と決して無縁ではありません。特に、サプライヤーが多階層にわたる複雑なサプライチェーンにおいては、二次、三次と遡るにつれて、我々の目の届かないところで、意図せず非正規の部品や素性の知れない原材料が紛れ込むリスクは常に存在します。コスト削減の圧力や供給の逼迫が、こうしたリスクを助長する可能性も否定できません。

トレーサビリティと品質保証の観点から

密輸された家畜は、当然ながら正規の検疫や衛生管理の記録を持ちません。これは、製造業における「出所の不明な部品」や「ミルシート(材料証明書)が信頼できない材料」と同じ問題をはらんでいます。たとえ最終製品の組み立てを国内の自社工場で行っていても、その構成部品の源流まで遡って品質と正当性を担保できなければ、本当の意味での品質保証は成り立ちません。

万が一、偽造品や規格外の部品が混入すれば、製品の性能不具合や、最悪の場合は安全性を脅かす事故につながりかねません。これは、リコールによる直接的な損失だけでなく、長年かけて築き上げてきた企業の信頼を根底から揺るがす事態に至る重大なリスクです。サプライチェーン全体の透明性を確保し、あらゆる構成要素の由来を追跡できるトレーサビリティの仕組みがいかに重要であるか、改めて認識させられます。

地政学リスクと供給網の脆弱性

今回の事例は、隣国との関係性や国境管理のあり方が、モノの流れに直接的な影響を及ぼすことを示しています。国家間の政治的な緊張、貿易政策の変更、あるいは今回のような密輸の取り締まり強化といった事象は、ある日突然、原材料や部品の供給を不安定にさせる可能性があります。

特定の国や地域に調達を大きく依存している場合、その地政学リスクを常に念頭に置いた事業継続計画(BCP)が不可欠です。調達先の多様化(マルチソーシング)や、代替材料・代替サプライヤーの事前検討など、有事の際に迅速に切り替えられる体制を平時から構築しておくことが、サプライチェーンの強靭性を高める上で極めて重要となります。

日本の製造業への示唆

この一見遠い国のニュースは、私たち日本の製造業に対して、改めて以下の点についての実務的な点検を促していると言えるでしょう。

1. サプライヤー管理の深化
一次サプライヤーとの取引だけでなく、その先の二次、三次のサプライヤーまで含めた管理体制の構築が求められます。特に海外からの調達においては、現地の法規制や商慣習、そして今回のような非公式な取引の存在リスクを理解し、定期的な監査や現地調査の重要性を再認識すべきです。

2. トレーサビリティシステムの徹底
製品を構成する部品や原材料が、いつ、どこで、誰によって作られたのかを正確に追跡できる仕組みは、品質保証の根幹です。自社の管理体制を見直し、必要であればブロックチェーンなどの新技術を活用して、サプライチェーン全体の透明性を高める努力が今後ますます重要になります。

3. サプライチェーンリスクの再評価とBCPの更新
地政学リスク、自然災害、経済情勢の変動など、サプライチェーンを脅かすリスクは多様化・複雑化しています。自社の調達網における脆弱な箇所(チョークポイント)を特定し、代替調達先の確保や在庫戦略の見直しを含めた、実効性のあるBCPを定期的に更新していくことが不可欠です。

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