世界最大のEVバッテリーメーカーである中国のCATLが、欧州での生産を本格化させています。この動きは、中国の製造業が単なる生産拠点から、グローバル市場で現地生産・現地供給を行う戦略的プレイヤーへと変貌していることを示唆しています。本稿では、この事例から読み取れる中国製造業の現在地と、日本の製造業が考慮すべき点について解説します。
CATLのドイツ工場稼働が意味すること
世界最大の車載電池メーカーである中国のCATL(寧徳時代新能源科技)が、ドイツのチューリンゲン州に建設した工場でのリチウムイオン電池セルの生産を開始した、という報道がありました。これは同社にとって中国国外で初となる工場であり、欧州の主要な自動車メーカーへの供給拠点としての役割を担うことになります。これまで「世界の工場」として製品を輸出してきた中国の有力企業が、需要地である欧州市場に直接乗り込み、現地で生産・供給を行う「地産地消」へと大きく舵を切った象徴的な出来事と言えるでしょう。
日本の製造業にとっても、これは対岸の火事ではありません。特に自動車産業においては、バッテリーはEV(電気自動車)の心臓部であり、その安定調達はサプライチェーン上の最重要課題です。巨大な生産能力を持つ競合企業が、主要市場のすぐそばに拠点を構えることの意味を、我々は冷静に分析する必要があります。
サプライチェーンの現地化と競争環境の変化
CATLが欧州に工場を建設した背景には、いくつかの戦略的な狙いがあると考えられます。第一に、顧客である欧州自動車メーカーへの納品リードタイム短縮と物流コストの削減です。第二に、欧州で高まる保護主義的な動きや関税リスクへの対応です。そして第三に、欧州の厳格な環境規制やサステナビリティ要求に現地で対応し、顧客との緊密な連携を図る狙いもあるでしょう。
これは、サプライチェーンがグローバルに最適化される時代から、地政学リスクや経済安全保障を考慮し、主要市場ごとにブロック化・現地化していく大きな潮流の一環と捉えることができます。日本の部品メーカーなども、これまでのように日本で生産して輸出するだけでなく、顧客の海外拠点に合わせて現地生産体制を構築することが、今後ますます重要になる可能性を示唆しています。
技術力とサステナビリティをめぐる主導権争い
元記事のタイトルは、中国の製造業が「世界の産業成長を牽引し、持続可能性を促進している」と強調しています。これは、中国が単なるコスト競争力だけでなく、技術力や環境対応においてもリーダーシップを発揮しようとしている国家的な意志の表れと見るべきです。CATLの工場が、生産プロセスにおけるグリーン電力の使用など、サステナビリティを強く意識して設計されている点も、その一例です。
かつては日本企業のお家芸であった高品質・高信頼性に加え、今や生産規模、コスト、そして環境性能といった多面的な競争がグローバル市場で繰り広げられています。特にEV関連技術は日進月歩であり、研究開発から量産までのスピード感が競争の行方を左右します。中国企業の巨大な投資力と迅速な意思決定は、この点で大きな強みとなっています。
日本の製造業への示唆
今回のCATLの事例から、日本の製造業が学ぶべき点は少なくありません。以下に要点を整理します。
1. グローバル生産体制の再検討
自社の主要顧客はどこにいるのか、そしてその市場で勝ち抜くために最適な生産拠点はどこなのか。地政学リスクや物流コスト、貿易政策の変化を踏まえ、サプライチェーン全体の戦略をゼロベースで見直す時期に来ているかもしれません。「Made in Japan」の価値を維持しつつも、顧客の近くで生産する「Made by Japan in Market」という発想が求められます。
2. 競争の土俵の変化への適応
もはや品質や技術力だけで優位性を保つことは困難です。製品ライフサイクル全体での環境負荷(カーボンフットプリント)や、サプライチェーンの透明性といったサステナビリティへの対応が、取引の必須条件となりつつあります。こうした非価格競争力をいかに高めていくかが、今後の重要な経営課題となります。
3. スピードと規模への対抗策
中国企業のような圧倒的な規模とスピードに対抗するには、自社の強みを再定義し、特定の分野に経営資源を集中させることが有効です。例えば、次世代の材料開発や、より高度な品質管理が求められるニッチな領域、あるいは生産現場の効率を極限まで高める「匠の技」とデジタル技術の融合など、日本ならではの価値を追求することが生き残りの鍵となるでしょう。
中国製造業の動向は、我々にとって脅威であると同時に、自らの在り方を見つめ直す良い機会でもあります。外部環境の変化を的確に捉え、しなやかに自己変革を続けていくことが、日本の製造業に求められています。


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