ロンドンの舞台芸術に関する一見畑違いのニュースから、製造業における「プロダクションマネジメント」の本質を読み解きます。多様な専門家集団を束ね、最高の成果を生み出すための普遍的な原則は、私たちの工場運営にも多くの示唆を与えてくれます。
はじめに:異分野から学ぶ視点
先日、ロンドンのウエストエンドで上演されるチャリティーコンサートに関する海外ニュースが報じられました。著名なアーティストやクリエイターが集結する華やかな世界の話題ですが、その中に「プロダクションマネジメント」という、私たち製造業の人間にとっても馴染み深い言葉が使われていました。もちろん、これは舞台制作における進行管理を指す言葉ですが、その本質を掘り下げてみると、製造現場の運営やプロジェクト管理と驚くほど多くの共通点を見出すことができます。本稿では、この異分野の事例から、私たちの仕事に通じる普遍的な原理を考察してみたいと思います。
多様な専門家を束ねる「司令塔」の役割
記事によれば、この舞台は照明デザイナー、音響デザイナーといった世界水準のクリエイティブチームによって制作されるとあります。舞台芸術とは、脚本家、演出家、俳優、そして裏方で支える照明、音響、美術、衣装といった多種多様な専門家たちの能力を結集して初めて成立する総合芸術です。そして、これら専門性の高い個々のチームをまとめ上げ、予算とスケジュールの制約の中で、演出家が描くビジョンを具現化する役割を担うのが「プロダクションマネージャー」です。
これは、製造業における工場長や生産技術のプロジェクトリーダーの役割と酷似しています。設計、資材調達、加工、組立、品質保証、設備保全など、細分化・専門化された各部門がそれぞれの持ち場で最高の仕事をしても、それらが有機的に連携しなければ、良い製品は生まれません。各部門の進捗を管理し、部門間の調整を行い、時には利害の対立を乗り越えさせながら、製品という一つのゴールに向かって全体を導く司令塔機能こそが、ものづくりの品質と効率を左右するのです。
「ワールドクラスのチーム」が機能するための条件
元記事は、この舞台制作チームを「ワールドクラス」と称しています。しかし、単に優秀な人材を集めただけでは、優れたチームになるとは限りません。むしろ、専門性が高いプロフェッショナル集団ほど、自身の領域へのこだわりが強く、視野が狭まる「部分最適」に陥りやすい危険性をはらんでいます。
照明は照明の、音響は音響の論理で最高のものを追求しますが、それらが融合した時に観客に与える全体験が最も重要です。そのためには、各専門家が互いの仕事を理解し、尊重し、最終的な目標である「観客の感動」のために自らの仕事を調整する姿勢が不可欠となります。製造現場においても同様です。設計部門が生産現場の作りやすさを、製造部門が後工程である品質保証の検査しやすさを考慮するなど、部門の壁を越えた「全体最適」の視点を持つ組織文化を醸成することが、真に競争力のあるチーム、すなわち「ワールドクラスのチーム」への道筋と言えるでしょう。
「本番」から逆算した緻密な計画と準備
舞台制作は、公演初日という、やり直しのきかない「本番」から逆算して全ての計画が立てられます。セットの設営、機材の搬入と仕込み、リハーサル、そして最終的な通し稽古であるゲネプロ。一つひとつの工程が緻密にスケジューリングされ、万全の準備をもって本番に臨みます。この「段取り」の品質が、舞台そのものの成否を決定づけると言っても過言ではありません。
私たちの製造業においても、顧客への製品納期はまさしく「本番」です。そこから逆算した生産計画、原材料の調達、試作品の評価、量産に向けた設備の立ち上げや人員の訓練など、周到な準備の重要性は論を俟ちません。日々の現場で実践される5S活動や段取り改善といった地道な取り組みこそが、安定した品質と納期遵守という最高の「本番」を支える盤石な土台となるのです。
日本の製造業への示唆
今回の異分野の事例は、私たちに以下の三つの重要な示唆を与えてくれます。
- 全体最適を志向する司令塔の重要性
専門分化が進む現代の製造現場において、各部門を横串でつなぎ、共通の目標へ導くマネジメント機能はますます重要になっています。工場長やリーダー層は、技術的な知見だけでなく、多様な専門家をまとめ上げる調整能力と俯瞰的な視点を持つことが求められます。 - プロフェッショナルが連携する組織文化の醸成
優れた個の力を最大限に引き出すためには、部門間の壁を取り払い、円滑なコミュニケーションを促進する組織文化が不可欠です。互いの専門性を尊重し、最終製品の品質という共通のゴールに向かって協力し合える風土づくりが、組織全体の競争力を高めます。 - 「段取り八分」の再認識
華やかな成果の裏には、必ず地道で緻密な準備が存在します。市場投入や顧客納期という「本番」で最高のパフォーマンスを発揮するために、計画、試作、改善といった「段取り」のプロセスを疎かにせず、その品質を徹底的に追求し続ける姿勢が重要です。
一見、無関係に見える分野の取り組みからも、ものづくりの本質に立ち返るための多くのヒントを得ることができます。常に視野を広く持ち、他分野の優れた事例から学ぶ姿勢を忘れないようにしたいものです。


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