韓国のサムスン電子が、次期スマートフォンの製造コスト高騰を理由に、製品価格の見直しを検討していることが明らかになりました。この動きは、最先端部品の価格上昇を自社の努力だけで吸収することの限界を示唆しており、日本の製造業にとっても他人事ではない重要な課題を浮き彫りにしています。
サムスン電子が直面するコスト圧力の背景
海外メディアの報道によれば、サムスン電子は2026年に発売予定のスマートフォン「Galaxy S26」シリーズにおいて、価格設定の見直し、すなわち値上げを検討しているとのことです。その直接的な原因は、製品の心臓部であるAP(アプリケーションプロセッサ)の調達価格が大幅に上昇することにあります。
具体的には、米クアルコム社が供給する次世代プロセッサ「Snapdragon 8 Gen 4」の価格が、現行世代から25〜30%上昇すると見込まれています。このプロセッサは、世界最大の半導体ファウンドリであるTSMCの最先端3nmプロセスで製造されますが、技術の高度化に伴いウェハあたりの製造コストが著しく増加しており、そのコストが部品価格に反映される形です。世界的な巨大企業であるサムスン電子ですら、このコスト上昇を吸収しきれず、最終製品の価格に転嫁せざるを得ない可能性に言及したことは、注目に値します。
最先端技術と製造コストのトレードオフ
今回の事例は、製品の高性能化を追求する上で避けられない製造コストの上昇という、製造業が常に直面する課題を改めて示しています。特に半導体のように技術開発が日進月歩で進む分野では、性能向上とコストは表裏一体の関係にあります。技術的優位性を確保するために最先端の部品を採用すれば、必然的に原価は上昇します。
これは、日本の製造業にとっても身近な問題です。例えば、自動車の電動化や自動運転技術の進化、工場の自動化設備における高性能センサーやプロセッサの採用など、あらゆる場面で同様のトレードオフが発生しています。設計段階でのコスト最適化(VEC活動)や、生産工程の効率化によるコスト削減努力は不可欠ですが、基幹部品そのものの価格上昇は、それらの努力だけでは吸収しきれないレベルに達しつつあると言えるでしょう。
サプライチェーンにおける価格交渉力とリスク管理
サムスンは自社でも「Exynos」というプロセッサを開発・製造していますが、それでもなおクアルコム製プロセッサに大きく依存しています。これは、特定のキーデバイスにおいて、代替が効かないサプライヤーが存在することの難しさを示しています。供給元が限定される高性能部品では、買い手側の価格交渉力が弱まり、サプライヤーの価格戦略を甘受せざるを得ない状況が生まれます。
日本の製造現場においても、独自の技術を持つ特定のサプライヤーから部品を調達しているケースは少なくありません。安定供給や品質維持の観点から特定のサプライヤーとの関係を深めることは重要ですが、同時に、価格高騰や供給途絶といったリスクに対する備えも必要です。サプライヤーの多様化や代替技術の継続的な評価、重要部品の内製化といったサプライチェーン戦略の重要性が、改めて問われています。
日本の製造業への示唆
今回のサムスン電子の事例から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。
1. 部品コスト上昇の適切な価格転嫁
原材料や部品のコスト上昇は、もはや一企業の自助努力だけで吸収できる範囲を超えつつあります。事業を継続し、新たな技術開発へ投資するためには、コスト構造の変化を顧客に丁寧に説明し、理解を得た上で、製品価格へ適切に転嫁していく経営判断が不可欠です。
2. サプライチェーン戦略の再評価
特定の高性能部品を単一のサプライヤーに依存するビジネスモデルのリスクを再認識すべきです。代替品の探索、複数社からの購買(デュアルソース化)、さらにはコア技術の内製化といった選択肢を常にテーブルに載せ、事業環境の変化に柔軟に対応できる体制を構築することが求められます。
3. 設計・開発段階からのコスト意識の徹底
製造工程でのコストダウンには限界があります。部品コストが製品原価の大部分を占める現代において、設計・開発段階でいかにコストを織り込むか(コスト・プランニング)が、企業の収益性を左右します。製造部門は、新技術や新部品がもたらすコストインパクトを設計・開発部門へ早期にフィードバックし、全社的な視点での原価企画を推進する役割を担う必要があります。
4. 技術動向とコスト構造の継続的な把握
半導体を筆頭に、自社の製品に使われる基幹部品の技術トレンドや、それに伴うコスト構造の変化を継続的に注視し、将来の事業計画や製品戦略に反映させていくことが重要です。外部環境の変化を的確に捉え、先手を打つことが、競争優位性の確保につながります。


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