世界有数の資源国であるインドネシアが、ニッケルや石炭などの生産枠承認プロセスを大幅に見直しました。この動きは世界のコモディティ市場を揺るがし、原材料の多くを輸入に頼る日本の製造業にとって、調達戦略の再考を迫る重要な変化と言えます。
生産管理システムの厳格化、その背景と目的
世界最大の一般炭輸出国であり、ニッケル生産においても圧倒的なシェアを誇るインドネシア政府は、鉱業生産枠(RKAB)の承認システムを根本的に見直しました。従来は毎年行われていた承認プロセスが3年ごとの更新となり、申請内容の審査も大幅に厳格化されています。この政策変更の背景には、国内の豊富な鉱物資源をより厳密に管理し、違法採掘を根絶するとともに、資源からの収益を最大化したいという政府の強い意志があります。また、単なる資源輸出国から脱却し、国内で付加価値の高い下流産業(例えば、ニッケルを原料とするEV用バッテリーやステンレス鋼の製造など)を育成するという長期的な国家戦略の一環と捉えることができます。
ニッケル、石炭、錫(すず)への具体的な影響
今回の政策変更は、日本の製造業に不可欠な複数の鉱物資源に直接的な影響を及ぼしています。特に注目すべきはニッケルです。インドネシアは世界のニッケル供給量の半分以上を占めており、EV用バッテリーやステンレス鋼の主要原料であるため、今回の供給遅延や生産枠の削減は、自動車産業や素材産業のコスト構造、さらには生産計画にまで影響を与えかねません。すでにニッケル価格は不安定な動きを見せており、調達担当者は難しい舵取りを迫られています。
また、発電用燃料やセメント・鉄鋼生産の熱源として利用される一般炭も、インドネシアが世界最大の輸出国です。エネルギーコストの上昇は、製造業全体のコスト競争力に直結する問題です。さらに、電子部品のはんだ付けに不可欠な錫(すず)についても、インドネシアは主要生産国の一つであり、すでに輸出許可の遅延による供給懸念が報じられています。エレクトロニクス業界にとっても他人事ではない状況です。
構造的な変化として捉える必要性
インドネシアの今回の動きは、単なる一時的な行政手続きの遅れではなく、資源ナショナリズムの高まりを背景とした構造的な変化と認識すべきでしょう。資源国が自国の利益を最大化するために輸出規制や外資規制を強化する流れは、今後他の国々にも広がる可能性があります。これは、グローバルに展開されてきたサプライチェーンの前提が大きく変わりつつあることを示唆しています。我々日本の製造業としては、原材料価格の高止まりや供給の不安定化が「ニューノーマル(新常態)」になる可能性を視野に入れ、事業計画や調達戦略を立てていく必要があります。
日本の製造業への示唆
今回のインドネシアの政策変更は、日本の製造業に対していくつかの重要な示唆を与えています。これらは、現場レベルから経営レベルまで、組織全体で取り組むべき課題と言えるでしょう。
1. 調達ポートフォリオの再評価と多様化:
特定国への過度な依存リスクを改めて認識し、調達先の多角化を真剣に検討すべき時期に来ています。代替供給国の開拓や、国内での備蓄、同業他社との共同調達といった選択肢も視野に入れる必要があります。
2. サプライヤーとの連携強化と情報収集:
現地のサプライヤーや商社とのコミュニケーションを密にし、最新の政策動向や許認可の状況といった情報を迅速かつ正確に把握する体制を強化することが不可欠です。サプライチェーンの上流で何が起きているかを常に監視し、変化の予兆をいち早く掴むことがリスク管理の第一歩となります。
3. コスト変動への耐性強化:
原材料価格の変動を吸収できるような生産プロセスの効率化や省エネルギー化を一層推進するとともに、顧客との価格改定交渉(フォーミュラ方式の導入など)の準備も必要になります。コスト上昇分を適切に製品価格へ転嫁できなければ、企業の収益性は著しく悪化します。
4. 技術開発による資源依存からの脱却:
長期的視点に立てば、希少資源の使用量を削減する技術や、代替材料の開発、リサイクル技術の高度化こそが、企業の持続的な競争力の源泉となります。今回の事態を、技術的な優位性を築くための好機と捉える戦略的な思考が求められます。


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