設計段階で決まる、これからのものづくり ― 製品の循環性が製造業の競争力を左右する

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製品のライフサイクル全体を見据えた「持続可能な製造業」への関心が高まっています。米国の専門家は、製品の循環性(サーキュラリティ)を設計段階でいかに織り込むかが、将来の製造業の成功を大きく左右すると指摘しています。

製品の価値は「ライフサイクルの終わり」まで考慮して設計される

ケンタッキー大学の持続可能な製造業研究所(ISM)を率いるI.S. Jawahir教授は、これからの製造業の成功の鍵は、製品の設計段階にあると強調しています。ここで言う設計とは、単に機能や性能、コストを追求するだけではありません。製品がその役目を終えた後、つまり分解、修理、再利用、再製造、リサイクルされることまでをあらかじめ想定し、それを容易にするための設計を指します。これは「製品の循環性(Product Circularity)」と呼ばれる考え方であり、従来の「作って、使って、捨てる」という一方通行の経済モデル(リニアエコノミー)からの脱却を目指すものです。

日本の製造現場では、古くから「源流管理」という言葉で、後工程の負担を減らすために前工程で品質を造り込む思想が根付いています。この考え方を、製品のライフサイクル全体、つまり市場に出た後から廃棄・再生される段階まで拡張することが、現代の製造業には求められていると言えるでしょう。

循環型設計がもたらす具体的なメリット

製品の循環性を高める設計は、環境負荷の低減という社会的な要請に応えるだけでなく、企業経営にも直接的なメリットをもたらします。例えば、製品をモジュール化し、分解や部品交換を容易にすることで、修理やアップグレードといったサービス事業という新たな収益源を生み出すことができます。また、再生材を効率的に活用できる設計は、昨今の原材料価格の高騰に対するリスクヘッジにも繋がります。

さらに、欧州連合(EU)などで進められている「修理する権利」の法制化や、製品の環境フットプリント情報の開示要求といった規制動向を鑑みても、循環性を考慮した設計は避けて通れない課題です。設計段階でこれらの要求に応えておくことは、将来の事業継続性を確保する上で極めて重要となります。

製造現場と設計部門の連携が不可欠

循環性の高い製品を実現するためには、設計部門だけの努力では不十分です。例えば、リサイクルしやすい単一素材への変更を設計部門が提案しても、その素材の加工性や耐久性を評価できるのは製造部門や品質管理部門です。また、分解しやすい構造は、同時に組立工程の効率化にも寄与する可能性があります。逆に、過度に複雑な締結方法を採用すれば、分解・リサイクル時のコストを押し上げてしまいます。

このように、製品のライフサイクル全体を最適化するためには、企画・設計から調達、製造、品質管理、そしてアフターサービスやリサイクルを担う部門までが、垣根を越えて知見を共有し、摺り合わせを行う必要があります。これは、部門間の連携を得意としてきた日本の製造業が、その強みを発揮できる領域とも言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の専門家の指摘から、日本の製造業が実務レベルで取り組むべき点を以下のように整理できます。

1. 設計思想の転換:
製品の環境性能や経済性の大部分は、設計段階で決定されます。機能やコストだけでなく、「製品の終わり方」までを設計要件に組み込む視点が不可欠です。これは、単なる追加の業務ではなく、製品の付加価値を高めるための重要な戦略と捉えるべきです。

2. 部門横断での情報共有と協業:
循環型設計は、全社的な取り組みです。設計者が製造現場の知見を学び、製造担当者がリサイクル現場の課題を理解するなど、ライフサイクルに関わる全部門が連携する仕組み作りが求められます。3Dモデルなどを活用し、組立性や分解性のシミュレーションを関係者で行うことも有効な手段です。

3. スモールスタートからの実践:
全ての製品で一斉に取り組むことは現実的ではありません。まずは特定の製品モデルを対象に、使用済み製品を分解・分析し、どこに改善の余地があるかを洗い出すことから始めるのが現実的です。例えば、締結部品をネジからリベットに変更したことで分解が困難になっていないか、異種材料が過度に一体化されていないか、といった具体的な課題を見つけることが第一歩となります。

環境規制の強化や消費者の意識変化は、製造業にとって挑戦であると同時に、新たな競争力を生み出す好機でもあります。製品のライフサイクル全体に責任を持つという姿勢は、企業のブランド価値を高め、持続的な成長を支える基盤となるでしょう。

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