米国の関税政策が製造現場に与える影響 – ニューヨーク州の事例から学ぶサプライチェーンリスク

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米国の鉄鋼・アルミニウムに対する追加関税は、国内産業の保護を意図したものでした。しかし、ニューヨーク州西部の製造業団体の報告によれば、その影響は意図とは裏腹に、コスト増と国際競争力の低下という形で現場に重くのしかかっているようです。

はじめに – 意図と異なる政策の帰結

近年、米国の通商政策、特に鉄鋼やアルミニウムに課された追加関税は、世界経済に大きな影響を与えてきました。これらの政策は、国内の生産者を保護し、雇用を創出することを目的として掲げられていましたが、実際の製造現場では予期せぬ課題が浮き彫りになっています。本稿では、ニューヨーク州バッファロー・ナイアガラ地域の製造業団体(Buffalo Niagara Manufacturing Alliance)への取材をもとに、関税が現場に与える具体的な影響を読み解いていきます。

原材料コストの高騰と利益の圧迫

最も直接的な影響は、原材料コストの高騰です。関税により、鉄鋼で25%、アルミニウムで10%の追加コストが発生し、企業の調達費用を直撃しました。問題なのは、多くの企業が必要とする特殊な仕様の金属材料が、米国内では十分に供給されていないという現実です。そのため、代替のきかない輸入品に頼らざるを得ず、関税分をそのままコストとして吸収せざるを得ない状況に陥っています。関税の適用除外を申請する制度も存在しますが、そのプロセスは煩雑で時間がかかり、多くの申請が認められていないのが実情のようです。これは、素材価格の変動に常に神経を尖らせている日本の製造業にとっても、身近な問題として捉えることができるでしょう。

サプライチェーンの不確実性と国際競争力の低下

コスト増に加え、サプライチェーン全体の不確実性が増大していることも深刻な問題です。材料のリードタイムが長期化し、生産計画の策定が困難になっています。こうした状況は、企業の競争力に直接的な打撃を与えます。取材を受けた団体によると、ある地元企業は、関税によるコスト増が価格競争力の低下を招き、メキシコの競合企業に大型契約を奪われるという事態に直面しました。自国製品を保護するための関税が、結果的に海外の競合を利するという皮肉な状況が生まれているのです。これは、グローバルな調達網を持つ日本の企業が、地政学リスクや各国の政策変更によって、いかに脆弱な立場に置かれうるかを示唆しています。

政策がもたらす「税」という本質

関税は、本質的には輸入製品に課される「税金」です。この税負担は、川下の製造業者を経て、最終的には消費者が支払う製品価格に転嫁されることになります。企業の利益を圧迫するだけでなく、市場全体の価格を押し上げ、経済活動を鈍化させる要因にもなりかねません。自由で公正な貿易環境が、安定した事業運営にとっていかに重要であるかを、この事例は改めて浮き彫りにしています。

日本とも共通する、もう一つの課題

この報告では、関税問題と並行して、製造業が直面するもう一つの大きな課題として「熟練労働者不足」が挙げられていました。ベビーブーマー世代の引退が進む一方で、若手の入職者が不足し、技術の承継が大きな経営課題となっています。これは、現在の日本が抱える問題と全く同じ構造です。不安定な国際情勢の中で競争力を維持するためには、外部環境への対応と同時に、人材育成や生産性向上といった、自社でコントロール可能な内部の課題にいかに向き合うかが重要となります。

日本の製造業への示唆

今回の米国の事例は、日本の製造業関係者にとっても多くの示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。

1. グローバル・サプライチェーンのリスク再評価:
特定の国や地域からの調達に依存するリスクを改めて認識し、サプライヤーの複線化や代替材料の検討、国内回帰の可能性など、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)に向けた具体的な検討が不可欠です。

2. 通商政策の動向注視と情報収集:
自社の事業に影響を及ぼす各国の関税や貿易政策の動向を、継続的に監視する体制を整えることが重要です。業界団体や専門機関からの情報を活用し、変化をいち早く察知し、対策を講じる必要があります。

3. コスト構造の把握と価格交渉力の強化:
原材料費の上昇を単なるコスト増として受け入れるのではなく、自社の付加価値を顧客に正しく伝え、適切な価格転嫁を行うための交渉力がこれまで以上に求められます。そのためには、自社の製品や技術が持つ競争優位性を明確にしておく必要があります。

4. 足元の競争力強化への回帰:
外部環境の不確実性が高まる中では、生産性向上、品質改善、人材育成といった、企業経営の根幹をなす活動の重要性が一層増します。どのような環境下でも揺るがない、強固な現場力と技術基盤を構築し続けることが、最終的なリスクヘッジとなります。

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