インドのウッタル・プラデーシュ州で、4万人以上の農村女性が主体となって酪農業を改革し、経済的自立を達成する取り組みが注目されています。この「ラクパティ・ディディ」構想は、単なる生産性向上に留まらず、日本の製造業が直面する人材育成やサプライチェーンの課題を考える上で、多くの示唆を与えてくれます。
インドで進む、現場主導の酪農サプライチェーン改革
インドのウッタル・プラデーシュ州で、農村地域の女性たちが主体となり、牛乳の生産から管理、販売までを一貫して担うことで、年収10万ルピー(約19万円)以上を得る「ラクパティ・ディディ(Lakhpati Didi)」と呼ばれる人々が45,000人以上生まれています。これは、政府や関連機関の支援のもと、地域の女性たちが自らの手で小規模ながらも強靭なサプライチェーンを構築した成果と言えます。
この取り組みの核心は、単に個々の農家に資金や機材を提供することに留まりません。乳牛の適切な飼育方法といった生産技術の指導に始まり、集荷センターの設置による品質管理、そして市場への安定的な販売ルートの確保まで、バリューチェーン全体を体系的に整備している点にあります。参加する女性たちは、単なる生産者ではなく、生産管理、品質管理、そしてマーケティングまでを担う、まさに「事業の当事者」なのです。
「自立」と「尊厳」がもたらす持続的な成長
元記事で言及されているように、「ラクパティ・ディディ」という概念は、単なる収入額以上の意味を持っています。それは、経済的な「自立」、職業人としての「尊厳」、そして地域社会における「リーダーシップ」の象徴です。これは、日本の製造現場における「働きがい」や「モチベーション」の問題と通じるものがあります。
やらされ仕事ではなく、自らが生産プロセス全体を理解し、改善に関与し、その成果が直接自分たちの生活向上に繋がるという実感。この当事者意識こそが、品質の維持向上や継続的な改善活動への強い動機付けとなっています。日本の工場においても、作業者一人ひとりが自工程の品質や効率に責任を持つだけでなく、サプライヤーから顧客まで、より広い視野で自らの役割を認識できるような仕組みや教育が、組織全体の力を引き出す鍵となります。
日本の製造業への示唆
このインドの事例は、業種や国が違えど、日本の製造業、特に地方に拠点を置く中小企業にとって示唆に富んでいます。以下に、実務的な観点からの要点を整理します。
1. 現場人材の「事業家」としての育成
現場の作業者を単なるオペレーターとしてではなく、品質・コスト・納期(QCD)を管理するミクロな事業家として育成する視点が重要です。この事例のように、生産技術だけでなく、管理手法やマーケティングの基礎知識を教育することで、現場の自律性は大きく向上します。権限移譲を進め、自らの判断で改善を進められる環境を整えることが、変化に強い現場づくりに繋がります。
2. 地域に根差したサプライチェーンの再評価
グローバルなサプライチェーンの脆弱性が露呈する中、地域内での調達や連携の価値が再認識されています。この事例は、地域の小規模な生産者を組織化し、育成することで、安定的で品質の高いサプライチェーンを構築できることを示しています。地域のサプライヤーと技術指導や品質管理のノウハウを共有し、共に成長するエコシステムを築くことは、結果として自社の事業継続性を高めることに繋がります。
3. 共感を呼ぶ目標設定と組織文化の醸成
「ラクパティ・ディディ」という、分かりやすく、多くの人が共感できる目標が、この取り組みの推進力となりました。日本の製造業においても、売上や生産量といった数値目標だけでなく、「私たちの技術で地域社会を豊かにする」「世界一安全な工場を作る」といった、従業員の誇りや貢献実感に繋がるビジョンを掲げ、共有することが不可欠です。こうした目標が、日々の改善活動に意味を与え、組織の一体感を醸成します。


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