2026年、海上運賃は25%下落の可能性も:供給過剰と環境規制、地政学リスクがもたらすサプライチェーンへの影響

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世界の海上輸送において、2026年までに運賃が大幅に下落する可能性があるとの予測が報じられました。その背景には、新造船の大量竣工による「供給過剰」と、環境規制や地政学リスクによる「航海日数の長期化」という、相反する要因の衝突があります。本稿では、この複雑な市場環境が日本の製造業のサプライチェーンに与える影響について、実務的な視点から解説します。

予測される運賃の下落とその背景

最近の海運市場に関するレポートによると、2026年までに海上運賃(特にドライバルクやブレークバルク貨物)が最大で25%下落する可能性があると指摘されています。コロナ禍における歴史的な運賃高騰と、その後の揺り戻しという短期的な変動とは異なり、今回の予測はより構造的な要因に基づいています。具体的には、「船舶の供給過剰」「環境規制の強化」「地政学リスクの常態化」という3つの要素が複雑に絡み合い、今後の市況を左右すると考えられています。

要因1:新造船の大量竣工による供給過剰圧力

コロナ禍でコンテナ船を中心に運賃が急騰した時期、多くの船会社が利益を元手に新造船を大量に発注しました。これらの船舶が2024年から2025年にかけて順次竣工を迎え、市場に投入されることで、船腹供給量は需要を大幅に上回る見込みです。この供給過剰は、運賃市況に対する強い下落圧力となります。荷主である製造業にとっては、船腹の確保が容易になり、運賃交渉において有利な状況が生まれる可能性があります。しかし一方で、船会社の収益悪化は、航路の統廃合やサービスの質の低下につながる懸念もあり、動向を注視する必要があります。

要因2:環境規制の強化がもたらす船速低下

国際海事機関(IMO)による燃費実績格付け(CII)などの環境規制強化は、海運業界全体に大きな影響を与えています。多くの船舶は、燃費効率を改善し規制を遵守するために、意図的に船速を落として運航する「減速航行」を余儀なくされています。船の速度が落ちれば、目的地までの航海日数は長くなります。これは、一隻あたりの輸送効率を低下させ、実質的な船腹供給量を減少させる効果があります。この「リードタイムの長期化」は、前述の供給過剰圧力をある程度相殺する要因として働いていますが、製造業にとっては納期の不安定化という新たな課題を生んでいます。

要因3:地政学リスクによる航路の混乱

中東・紅海情勢の緊迫化に伴うスエズ運河の通航回避や、気候変動に起因するパナマ運河の渇水問題は、世界の主要航路に大きな混乱をもたらしています。多くの船舶はアフリカ喜望峰を迂回する長い航路を選択せざるを得ず、これも航海日数を大幅に増加させる要因となっています。この航路の長期化もまた、市場に存在する船舶を洋上で拘束し、一時的に供給逼迫のような状況を生み出して運賃を下支えしています。しかし、これらの地政学的な問題が将来的に解決に向かった場合、減速航行で隠されていた潜在的な供給過剰が一気に顕在化し、運賃が急落する引き金になる可能性も指摘されています。

日本の製造業への示唆

この複雑な市場環境を踏まえ、日本の製造業関係者は以下の点に留意すべきでしょう。

1. 物流コストの中期的な見直し:
運賃の下落局面が訪れる可能性を視野に入れ、今後の物流予算や製品のコスト計算に反映させることが考えられます。ただし、下落の時期や幅は不透明であり、地政学リスクの動向次第では高止まりする可能性も残ります。フォワーダー等と密に連携し、複数のシナリオを準備しておくことが賢明です。

2. リードタイム長期化の常態化に備える:
運賃の動向に関わらず、環境規制による減速航行は今後も続くと考えられます。サプライチェーン全体でリードタイムが長期化・不安定化することを前提に、安全在庫水準の見直しや、需要予測精度の向上、代替輸送ルートの確保といった対策を継続的に進める必要があります。

3. サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)の追求:
特定の航路や調達先に依存するリスクが改めて浮き彫りになりました。運賃の変動に一喜一憂するのではなく、調達・生産・販売拠点の地理的な分散化(マルチソーシング、ニアショアリング等)を含め、いかなる状況でも事業を継続できる安定したサプライチェーンの構築が、これまで以上に重要な経営課題となります。

4. パートナーとの連携強化:
市況が不安定な時こそ、信頼できる船会社やフォワーダーとの良好な関係が重要になります。定期的な情報交換を通じて市場の最新動向を把握し、サービス変更や航路の混乱に迅速に対応できる体制を整えておくことが、リスクを最小限に抑える上で不可欠です。

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