中国の自動車大手、吉利汽車(Geely Auto)の好調な業績見通しが報じられています。その背景には、単なる販売拡大だけでなく、複数のブランドを連携させる「シナジー創出」と、それを具現化する「生産管理の高度化」があり、日本の製造業にとっても示唆に富むものです。
背景:マルチブランド戦略による成長
近年、中国の自動車メーカーである吉利汽車は、吉利ブランドのみならず、Volvo、Lotus、新興EVブランドのZeekrなど、多様なブランドを傘下に収めるマルチブランド戦略を推進しています。最近の金融機関のレポートでは、この戦略がブランド間の相乗効果(シナジー)を生み出し、収益性を高めていると評価されています。単に多くのブランドを抱えるだけでなく、それらをいかに連携させ、企業グループ全体の力に変えていくかが問われているのです。
収益性向上の鍵1:ブランド間のシナジー創出
マルチブランド戦略の成功の鍵は、各ブランドが持つ技術、購買力、生産能力などをいかに共有し、効率化を図るかにかかっています。例えば、Volvoの安全技術や設計思想をグループ内で活用したり、部品の共同購買によってコストダウンを図ったりすることが考えられます。日本の製造業においても、M&Aなどを通じて事業やブランドが多角化するケースは少なくありません。しかし、各事業が独立した「サイロ」状態に陥り、グループとしての総合力を発揮できていない例も見受けられます。吉利汽車の事例は、ブランドの個性を保ちつつ、裏側のプラットフォームや基幹部品を共有化することの重要性を示唆しています。
収益性向上の鍵2:シナジーを支える生産管理の高度化
多様なブランドの製品群を効率的に生産するためには、生産管理体制の高度化が不可欠です。レポートでは「生産管理が徐々に実現される」という表現が使われており、これは、モジュール化されたプラットフォーム(車台)を基盤に、様々なブランドの車種を柔軟に生産できる体制の構築が進んでいることを示唆しています。これは、日本の自動車産業が得意としてきたプラットフォームの共通化や混流生産の考え方と通じるものがあります。特にEV化が進む中で、バッテリーやモーターといった中核部品を含めたアーキテクチャを標準化し、多様なニーズに応える生産体制を築くことが、コスト競争力と市場への迅速な対応力を両立させる上で極めて重要になります。
製品サイクルと利益弾力性
レポートでは、生産管理の高度化が「製品サイクルの上昇」と相まって、「より強い利益弾力性」を示すと分析されています。利益弾力性とは、売上高の増加に対して利益がどれだけ大きく増加するかを示す指標です。つまり、新製品が市場に投入される良いサイクル(upward product cycle)に入った際、効率化された生産体制が整っていることで、販売台数の増加がこれまで以上に大きな利益の伸びに繋がる、ということです。これは、損益分岐点が下がり、売上の増加が直接的に利益に貢献しやすい体質へと変化していることを意味します。設備投資や開発費といった固定費を、効率的な生産体制によって多くの製品で按分できれば、一台あたりの利益率は向上します。事業戦略と生産戦略がいかに密接に連携すべきかを示す好例と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の吉利汽車の事例は、グローバルな競争環境で勝ち抜くためのヒントを日本の製造業に与えてくれます。以下に要点を整理します。
1. 事業間のシナジーの再定義:
自社内に複数の事業部やブランド、あるいはグループ会社が存在する場合、それぞれが持つ技術や購買、生産のノウハウを共有し、グループ全体で最適化する仕組みが構築できているか、改めて検証する価値があります。組織の壁を越えた連携が、コスト削減や開発速度の向上に直結します。
2. 生産体制の柔軟性と拡張性:
市場のニーズが多様化し、製品ライフサイクルが短縮化する中で、多品種少量生産にも効率的に対応できる柔軟な生産体制の重要性は増しています。製品設計の段階からモジュール化や標準化を意識し、生産ラインの組み換えや変更に迅速に対応できる工場運営が、企業の収益性を左右します。
3. 事業戦略と生産戦略の強固な連携:
新製品開発やマーケティングといった事業戦略と、それを具現化する生産戦略は、車の両輪です。戦略レベルから両者が密に連携し、どのような製品を、どのような生産方式で、どれくらいのコストで製造するのかを一体で考えることで、初めて「売れれば売れるほど儲かる」高収益体質が実現できるのです。


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