近年、オンラインゲームのようなデジタルサービス業界において、その事業構造が「製造業の技術設計と生産管理のようだ」と評される事例が見られます。これは、私たち製造業が長年培ってきた体系的なアプローチが、業種の垣根を越えて競争力の源泉として認識されていることを示唆しています。
デジタル業界で評価される製造業的アプローチ
先日、欧州のオンラインゲーム業界における企業提携に関する海外記事の中で、興味深い一文が目に留まりました。その提携企業の事業構造を評して、「それは単なるコンテンツプロバイダーというより、技術設計(engineering)と生産管理(production management)に基づいた仕組みである」と述べられていたのです。一見すると、製造業とは全く異なる世界の話に聞こえますが、この表現は重要な示唆を含んでいます。
つまり、デジタルコンテンツという無形財を扱うビジネスにおいても、その成功の鍵は、場当たり的なアイデアやクリエイティビティだけにあるのではなく、いかにして高品質なサービスを安定的かつ効率的に供給し続けるか、という仕組みの構築にある、ということです。そして、その理想的なモデルとして、私たち製造業が実践してきた技術設計や生産管理の考え方が参照されているのです。
「技術設計」と「生産管理」がもたらす価値
製造業に携わる我々にとって、「技術設計」と「生産管理」は事業の根幹をなすものです。技術設計部門は、製品の機能や品質、コストを決定づけ、量産性や保守性までを考慮した図面を描きます。そして生産管理部門は、その図面をもとに、QCD(品質、コスト、納期)を最適化するための計画を立て、資材の調達から工程管理、品質保証に至るまで、工場全体の流れを統制します。
この考え方をデジタルサービスに当てはめてみましょう。「技術設計」は、ソフトウェアのアーキテクチャ設計や拡張性、セキュリティなどを考慮した、いわばサービスの「設計思想」に相当します。一方の「生産管理」は、開発プロセスの管理(アジャイル開発など)、品質保証(QA)、そして安定稼働を支える運用・保守(DevOps)といった、サービスを継続的に提供するための仕組みづくりに他なりません。これらが体系的に構築されているからこそ、ユーザーは安心してサービスを使い続けることができるのです。
製造現場の知見は普遍的な強み
デジタル化やDXが叫ばれる昨今、ともすれば製造業は旧来型の産業と見なされがちかもしれません。しかし、今回の事例が示すように、製造業が厳しい競争環境の中で磨き上げてきた、体系的な管理手法や改善活動のノウハウは、極めて普遍的で強力な武器となり得ます。
例えば、トヨタ生産方式(TPS)に代表されるような、徹底した無駄の排除や継続的改善(カイゼン)の思想は、ソフトウェア開発における「アジャイル」や「リーン」の考え方にも大きな影響を与えています。物理的なモノの流れを最適化する知見は、デジタルな情報の流れや開発プロセスを最適化する上でも有効なのです。現場で日々行われている地道な改善活動や品質管理の取り組みは、形を変えれば、どのような業種においても価値を生み出すポテンシャルを秘めています。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、私たちは自社の持つ強みを再認識することができます。以下に、実務への示唆として要点を整理します。
1. 現場のノウハウは普遍的な経営資源である
長年にわたり培ってきた生産管理、品質管理、設計開発のノウハウは、単なるモノづくりの技術にとどまりません。それは、社内のDX推進や新規のサービス事業を立ち上げる際にも応用可能な、極めて価値の高い経営資源です。自社の「当たり前」にこそ、競争優位の源泉が眠っている可能性があります。
2. 体系的アプローチの価値を再認識する
デジタル技術の導入というと、最新ツールの導入にばかり目が行きがちです。しかし、本当に重要なのは、その技術をいかに業務プロセスに組み込み、安定的に運用し、継続的に改善していくかという体系的なアプローチです。この点において、製造業は大きなアドバンテージを持っています。
3. 自信を持って事業変革に取り組む
異業種が私たちの仕事のやり方を模範としようとしている事実は、日本の製造業が持つポテンシャルの大きさを示しています。これまでの経験と知見に自信を持ち、それをデジタル時代の新たな価値創造へと繋げていく視点が、これからの企業経営において一層重要になるでしょう。


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