米国オハイオ州で、鉛を扱っていた工場の解体現場周辺から高濃度の鉛が検出され、問題となっています。この事例は、製造業にとって工場閉鎖や解体がいかに重要な環境・安全管理の局面であるかを浮き彫りにしています。
米国で発生した工場解体に伴う大気汚染
米国オハイオ州の環境保護庁(EPA)は、同州フルトン郡デルタにある鉛加工・製造工場の跡地で行われている解体作業について、調査を開始したと報じられています。報道によると、解体現場周辺の大気から高濃度の鉛が検出されたことが調査のきっかけとなった模様です。この工場は過去に鉛を用いたベアリングなどを製造していた施設であり、解体作業に伴って建材や土壌に残留していた鉛が粉塵として飛散した可能性が考えられます。
工場閉鎖・解体時に顕在化する環境リスク
今回の事例は、長年にわたり操業を続けてきた工場を閉鎖・解体する際に、潜在的な環境リスクが顕在化する典型的なケースと言えるでしょう。製造業の現場では、生産活動そのものにおける環境・安全管理は日常的に行われていますが、工場の「終活」ともいえる解体の段階におけるリスク管理は、時に見過ごされがちです。特に、過去に特定有害物質を使用していた工場では、以下のようなリスクに注意を払う必要があります。
土壌・地下水汚染:
長年の操業により、化学物質や重金属が敷地内の土壌や地下水に浸透・蓄積している可能性があります。解体工事の振動や掘削によって、これらの汚染物質が拡散・流出する恐れがあります。
大気汚染:
建材に使用されているアスベスト(石綿)や、今回の事例のような鉛、あるいはPCBを含む古い電気設備など、解体作業によって有害物質が粉塵として大気中に飛散するリスクです。これは、作業員だけでなく、近隣住民の健康にも直接的な影響を及ぼしかねません。
廃棄物の不適切な処理:
解体に伴い発生する瓦礫や設備には、有害物質が含まれている場合があります。これらを法令に則って適正に分別・処理しなければ、二次的な環境汚染を引き起こす原因となります。
日本の製造業における資産と負債の再認識
日本国内でも、土壌汚染対策法や大気汚染防止法など、工場解体に関わる厳しい法規制が存在します。これらの法令を遵守することは当然の責務です。しかし、法規制への対応は最低限の義務であり、企業の社会的責任(CSR)や事業継続性の観点からは、より踏み込んだ管理が求められます。
高度経済成長期に建設された多くの工場が、今後、老朽化による建て替えや閉鎖の時期を迎えます。その際、土地や建物といった有形資産だけでなく、過去の操業によって蓄積された「環境負債」とも言うべき汚染リスクを、企業は正確に把握し、向き合わなければなりません。汚染の調査や浄化には多額の費用と時間を要することもあり、事業計画や財務に大きな影響を与える可能性も十分に考えられます。
日本の製造業への示唆
今回の米国の事例は、決して対岸の火事ではありません。日本の製造業関係者は、この一件から以下の点を再認識し、自社の操業と将来計画に活かすべきでしょう。
1. 工場閉鎖・解体は重要なリスク管理プロセスである
工場の閉鎖は、単なる生産活動の終了ではありません。環境汚染の防止、作業員の安全確保、近隣社会への説明責任を果たすための、極めて重要なリスク管理プロセスと位置づける必要があります。
2. 有害物質の使用履歴と敷地管理の徹底
操業中から、使用した化学物質の種類、量、場所などを正確に記録・管理しておくことが、将来の解体時におけるリスク評価と対策の基礎となります。敷地内での漏洩事故などの履歴も、正確に引き継がれるべき情報です。
3. 事前調査に基づく計画的な解体・除去作業
解体に着手する前に、専門家による十分な土壌調査や建材分析を行うことが不可欠です。汚染の有無や範囲を特定し、飛散防止策や汚染除去の方法を盛り込んだ、科学的で安全な作業計画を策定することが求められます。
4. 企業のレピュテーション(評判)リスクへの備え
ひとたび環境汚染問題が発生すれば、浄化費用といった直接的な損害だけでなく、地域社会からの信頼を失い、企業ブランドが大きく傷つく可能性があります。これは、サプライチェーン全体や採用活動にも影響を及ぼしかねない、深刻な経営リスクです。


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