欧州連合(EU)で、鉄鋼製品に対するセーフガード(緊急輸入制限)措置の強化が検討されています。この動きは、現地の鉄鋼メーカーを保護する目的がある一方、鉄鋼を材料として使用する多くの製造業にとっては深刻なコスト増につながるとして、懸念の声が上がっています。本稿では、この問題の背景と、日本の製造業が注視すべき点について解説します。
EUで検討される鉄鋼セーフガード措置の強化案
ロイター通信の報道によると、欧州委員会は現在、鉄鋼製品の無関税輸入割当量を大幅に削減し、それを超える輸入分に対して高率の関税を課す案を検討している模様です。具体的には、国別の無関税枠を従来の半分近くまで引き下げ、超過分には50%という非常に高い関税を適用することが提案されています。この措置は、EU域外からの安価な鉄鋼製品の流入を抑制し、域内の鉄鋼産業を保護することを目的としています。
欧州製造業からの強い懸念
この保護主義的な動きに対し、鉄鋼を主要材料とするEUの製造業からは強い反発が生まれています。自動車、産業機械、建設、家電といった幅広い分野の企業で構成される業界団体は、「壊滅的な価格高騰を招く」として、この提案に警鐘を鳴らしています。彼らの主張の要点は、安価で安定的な鋼材の調達が困難になることで、製品のコストが大幅に上昇し、最終的にはグローバル市場での競争力を失うというものです。サプライヤーからの材料費上昇は、そのまま製品価格に転嫁せざるを得ず、インフレを助長する要因にもなりかねません。これは、生産現場におけるコスト管理を一層難しくするものであり、収益性を大きく圧迫するリスクをはらんでいます。
保護主義の背景と日本の製造業への影響
こうした動きは、単に鉄鋼業界の問題に留まりません。地政学的な緊張の高まりや経済安全保障の観点から、世界的に自国産業を保護しようとする潮流が強まっていることの表れと捉えるべきでしょう。日本企業にとって、この問題は決して対岸の火事ではありません。特に、EU域内に生産拠点を持つ企業にとっては、直接的な影響が懸念されます。現地での鋼材調達コストが上昇すれば、事業計画や収益予測の見直しを迫られる可能性があります。また、直接的な拠点がない場合でも、グローバルなサプライチェーンを通じて間接的な影響を受けることも考えられます。例えば、EUの競合メーカーのコスト構造が変化することで、国際市場での価格競争の力学が変わる可能性もあります。さらに、こうした保護主義的な措置が鉄鋼だけでなく、アルミニウムや化学製品など他の基幹材料に波及するリスクも念頭に置く必要があります。
日本の製造業への示唆
今回のEUにおける鉄鋼セーフガード強化の動きは、グローバルに事業を展開する日本の製造業にとって、サプライチェーン戦略を再考する重要なきっかけとなります。以下に、実務上の要点と示唆を整理します。
1. サプライチェーンリスクの継続的な監視と再評価
特定地域からの輸入に依存している原材料や部品がないか、サプライチェーン全体のリスクを定期的に評価することが不可欠です。今回の鉄鋼のように、各国の通商政策によって調達環境が急変する可能性を常に考慮し、調達先の多様化や代替材料の検討といった対策を平時から進めておくことが重要です。
2. 海外拠点の調達戦略の見直し
特に欧州に生産拠点を持つ企業は、現地の調達環境の変化を綿密に監視し、サプライヤーとの関係を強化する必要があります。長期契約や価格フォーミュラの再交渉、あるいは現地での代替サプライヤーの探索など、より具体的で踏み込んだ調達戦略の見直しが求められます。
3. グローバルな通商政策の動向把握
今回の動きは、経済のブロック化や保護主義の広がりを象徴する一例です。鉄鋼に限らず、各国・地域の政策動向を継続的に収集・分析し、自社の経営戦略や事業継続計画(BCP)に反映させる体制を整えることが、今後の不確実な時代を乗り切る上で不可欠となるでしょう。
4. 付加価値による競争力強化
原材料コストの上昇が避けられない環境下では、単なる価格競争から脱却し、技術力、品質、納期対応といった付加価値で差別化を図る経営が一層重要になります。自社の強みを再定義し、顧客にとって代替の利かない価値を提供し続けることが、持続的な成長の鍵となります。


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