食品加工大手のADMと農業化学大手のバイエルが、インドで持続可能な大豆生産プログラムを拡大しています。この取り組みは、単なる農業支援に留まらず、サプライチェーン上流における品質管理とサステナビリティを高度化させる試みであり、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
概要:グローバル企業によるサプライチェーン上流への関与
食品・農産物加工で世界をリードするADM(Archer Daniels Midland)と、農業化学・医薬品分野の世界的企業であるバイエルは、インドにおいて持続可能な大豆生産を支援するプログラムを拡大すると発表しました。これは、両社が協力し、現地の小規模農家に対して生産技術やノウハウを提供することで、大豆の品質と収量を向上させ、同時に環境負荷を低減させることを目的としています。
取り組みの核心:農家ごとの「個別最適化」された生産管理
このプログラムの注目すべき点は、画一的な指導ではなく、個々の農家の状況に合わせた「カスタマイズされた生産管理」を導入していることです。具体的には、土壌の状態や気候条件などを考慮し、それぞれの農家に最適化された農薬散布プログラムを提供するとしています。これは、製造業における「マス・カスタマイゼーション」や、顧客ごとの仕様に対応する「個別受注生産」の考え方を、農業という自然条件に大きく左右される分野に応用する試みと捉えることができます。単に良い資材を提供するだけでなく、その使い方まで含めて最適化を図るというアプローチは、非常に実務的です。
品質と環境への配慮:具体的な管理項目
提供されるプログラムでは、「収穫前散布間隔(pre-harvest intervals)」と「生物多様性の保護」が重視されています。収穫前散布間隔の遵守は、製品の安全性に直結する残留農薬基準を満たすための、品質管理上の必須項目です。また、生物多様性の保護にまで言及している点は、サプライチェーン全体で環境への配慮、すなわちサステナビリティを追求する現代の企業姿勢を明確に示しています。生産効率の追求だけでなく、最終製品の安全性と環境負荷低減という、二つの重要な要請をサプライチェーンの源流から管理しようという強い意志が感じられます。
日本の製造業への示唆
今回のADMとバイエルの取り組みは、業種は異なるものの、日本の製造業にとって多くの示唆に富んでいます。以下に主要な点を整理します。
1. サプライチェーン上流への関与の深化
原材料や部品の調達において、発注先に対して品質仕様を提示するだけでなく、その生産プロセス自体に関与し、品質の安定化や持続可能性を高める活動が、自社の競争力に直結する時代になっています。特に海外からの調達においては、現地の生産基盤そのものを強化する視点が不可欠と言えるでしょう。
2. データに基づく個別最適化の展開
農業という変動要素の多い分野でさえ、個々の農場に合わせた「個別最適化」が進んでいます。これは、工場内の多様な設備や熟練度の異なる作業者一人ひとりに対し、データに基づいて最適な作業指示や管理を行うことの重要性を示唆しています。画一的な管理から、個々の状況に応じた柔軟な管理体制への移行が求められます。
3. 品質管理とサステナビリティの統合
製品の安全性や品質保証と、環境保護(サステナビリティ)は、もはや切り離して考えられるものではありません。自社のCSR活動や環境目標が、サプライチェーン全体を俯瞰したものになっているか、特に原材料の生産段階における環境負荷や労働環境まで視野に入っているか、改めて点検する良い機会ではないでしょうか。
4. 異業種連携による価値創造
今回の事例は、食品加工メーカーと農業化学メーカーという、サプライチェーン上で隣接する異業種が連携することで、新たな価値を生み出しています。自社の持つ技術やノウハウを、サプライヤーや顧客といったパートナーと組み合わせることで、これまで解決できなかった課題への新たなアプローチが見つかる可能性があります。


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