米国の半導体設計大手クアルコムが、韓国のサムスン電子と次世代の2nm(ナノメートル)プロセスによる半導体チップの委託生産について協議していることが報じられました。この動きは、最先端半導体の受託製造(ファウンドリ)市場における競争の行方と、関連するサプライチェーンに影響を与える可能性があります。
報道の概要:クアルコムCEOの発言
ロイター通信によると、クアルコムのクリスティアーノ・アモンCEOが、サムスン電子と2nmチップの委託生産について協議している旨を語ったと報じられました。クアルコムはスマートフォン向けの高性能プロセッサー「Snapdragon」シリーズなどで知られる世界有数のファブレス半導体メーカーです。これまでも最先端チップの生産は、台湾のTSMCと韓国のサムスン電子という二大ファウンドリに委託してきました。今回の報道は、さらに先の世代である2nmプロセスにおいても、サムスンとの協業を検討していることを示すものです。
背景:激化する最先端ファウンドリの主導権争い
現在の半導体ファウンドリ市場では、TSMCが技術力と生産能力で他社をリードし、圧倒的なシェアを確保しています。サムスン電子はそれを追う2番手の位置にあり、両社は3nm、そして今回の2nmといったプロセス微細化の分野で熾烈な開発競争を繰り広げています。プロセスが微細化するほど、チップの性能向上や消費電力低減が期待できますが、その製造には莫大な投資と極めて高度な技術力が要求されます。
クアルコムやアップル、NVIDIAといった大手ファブレス企業がどのファウンドリに生産を委託するかは、ファウンドリ各社の収益だけでなく、技術的な優位性を示す試金石となります。特に、2nm世代ではGAA(Gate-All-Around)と呼ばれる新しいトランジスタ構造が本格的に導入される見込みであり、その生産安定性や性能がファウンドリ選定の重要な鍵を握ると考えられます。クアルコムがサムスンの2nmプロセスに関心を示していることは、サムスンの技術開発がある一定の水準にあることの証左とも言えるでしょう。
日本の製造業から見た視点
このニュースは、日本の製造業、特に半導体関連分野にいくつかの重要な視点を提供します。第一に、半導体製造装置および材料メーカーへの影響です。TSMCやサムスン、さらには米国のインテルといった巨大プレイヤーが最先端プロセスへの投資を続けることは、日本の装置・材料メーカーにとって大きな事業機会となります。ただし、どのファウンドリが主導権を握るかによって、求められる技術仕様や評価のタイミング、サプライヤー認定のプロセスも変化します。自社の技術がどのプレイヤーのロードマップに合致するのか、密な情報収集と関係構築が不可欠です。
第二に、サプライチェーンの観点です。最先端半導体は、今やあらゆる工業製品の頭脳であり、その供給は国家の産業競争力をも左右します。供給元が特定の企業や地域に集中することは、地政学的リスクや自然災害時の供給途絶リスクを常に内包しています。クアルコムのような大手顧客がTSMCとサムスンの両睨みで調達先を検討する動きは、供給元を多様化(デュアルソース化)し、リスクを分散させる狙いもあると考えられます。これは、半導体を部品として調達する日本のメーカーにとっても、自社のBCP(事業継続計画)を見直す上で参考になる動きと言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の報道から、日本の製造業関係者が得るべき実務的な示唆を以下に整理します。
1. 最先端技術ロードマップの継続的な監視:
ファウンドリ各社(TSMC、サムスン、インテル、そして日本のRapidusなど)の微細化競争と、主要顧客であるファブレス企業の動向は、常にセットで把握することが重要です。この動向は、半導体市場全体の方向性を示し、自社の事業戦略を立てる上での重要な羅針盤となります。
2. サプライチェーンリスクの再評価:
自社製品に使用する重要半導体の調達先が、特定のファウンドリや国・地域に偏っていないか、改めて評価することが求められます。可能な範囲で代替品の検討や調達先の多様化を進めるなど、サプライチェーンの強靭化に向けた具体的な検討が必要です。
3. 自社技術のポジショニングの明確化:
半導体製造装置・材料メーカーにとっては、2nm世代で求められる技術要件を正確に捉え、顧客に先んじてソリューションを提案する力が競争力を左右します。EUV露光関連、新しい成膜・エッチング技術、GAA構造に対応した検査・計測技術など、自社の強みがどの領域で活かせるのかを明確にし、開発リソースを集中させることが肝要です。


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