製造現場における日々の生産活動は、計画通りに進めることが基本となります。本稿では、特にバッチ生産において「計画」と「実績」を比較管理することの重要性について、歩留まり、工数、材料という3つの視点から改めて考察します。
生産管理の基本サイクル「計画・実行・監視」
製造業における生産管理は、製品を効率的かつ安定的に生産するための根幹をなす活動です。その基本は、生産の「計画(Plan)」を立て、それに従って「実行(Do)」し、その結果を「監視(Check)」するというサイクルに集約されます。これは、品質管理で馴染み深いPDCAサイクルそのものと言えるでしょう。特に、特定のロットや指示単位で生産を行うバッチ生産においては、このサイクルを正確に回すことが品質とコストの安定に直結します。
残念ながら、日々の業務に追われる中で「実行」に注力するあまり、「計画」の精度や「監視」の仕組みが形骸化してしまうケースは少なくありません。しかし、現場の力を最大限に引き出し、継続的な改善を行うためには、計画と実績を突き合わせ、その差異を客観的に分析するプロセスが不可欠です。近年では、生産管理システム(MES)などを活用し、この監視・分析プロセスを効率化する動きも広がっています。
比較分析の3つの重要指標:歩留まり・工数・材料
生産活動の実績を評価する際、特に重要となるのが「歩留まり」「工数」「材料使用量」の3つの指標です。計画段階で設定した標準値と、生産後の実績値を比較することで、工程に潜む問題点や改善のヒントが見えてきます。
歩留まり(Yield): 投入した原材料に対して、どれだけの良品が完成したかを示す割合です。計画よりも実績歩留まりが低い場合、それは単に廃棄コストの増加を意味するだけでなく、機械の不調、作業方法の問題、あるいは原材料の品質ばらつきといった、より深刻な問題を示唆している可能性があります。
工数(Labour): 一つのバッチを生産するために要した作業時間や人員を指します。計画工数を大幅に上回っている場合、特定の作業での手こずり、段取り替えの非効率、作業者のスキル不足などが原因として考えられます。逆に、常に計画より早く終わる場合は、計画(標準時間)の見直しが必要かもしれません。
材料使用量(Material Use): 生産に使用した主原料や副資材の実績値です。歩留まりの低下と連動して悪化することが多いですが、投入時の計量ミスや、工程内での意図せぬロスなども原因となり得ます。材料費の変動が激しい昨今、材料使用量の正確な管理は、原価管理の観点からも極めて重要です。
予実管理がもたらす現場改善の機会
計画と実績の差異(予実差異)を分析することは、単なる結果の確認作業ではありません。それは、具体的な改善活動へと繋がる貴重な起点となります。例えば、「なぜこの製品のバッチだけ、いつも歩留まりが計画値を下回るのか」という問いから、4M(人、機械、材料、方法)の観点で原因を深掘りし、真因を特定する活動が始まります。
また、これらのデータは、特定の作業者に依存しがちな「暗黙知」を「形式知」へと転換させる一助ともなります。優れた実績を上げた際のデータを分析し、その要因を標準作業手順に反映させることで、組織全体の技術力向上や技能伝承を促進することができるのです。経営層にとっては、精度の高い実績データは、正確な製品別原価計算や、将来の設備投資判断を行う上での信頼できる情報源となります。
日本の製造業への示唆
本稿で見てきた計画と実績の比較管理は、決して目新しい手法ではありません。しかし、その基本を徹底することが、競争力の源泉となります。日本の製造業が今後さらに発展していくための示唆を以下に整理します。
- データの客観性と即時性: 勘や経験だけに頼るのではなく、生産管理システムなどを活用して、客観的で信頼性の高い実績データを収集する体制を構築することが重要です。差異を迅速に把握することで、問題への初動が早まります。
- 全員参加での改善活動: 収集・分析された予実差異データは、経営層や管理者だけでなく、現場のリーダーや作業者にも分かりやすい形で共有されるべきです。自らの仕事の結果を数値で振り返る機会が、現場の当事者意識と改善意欲を育みます。
- 標準の継続的な見直し: 予実管理を通じて得られた知見は、標準原価や標準時間、標準作業手順書といった「計画の基準」そのものを見直すために活用すべきです。これにより、計画と実態が乖離することを防ぎ、より現実に即した管理が可能となります。
- 経営と現場をつなぐ共通言語: 歩留まりや工数といった指標は、現場の改善活動と経営のコスト管理を結びつける共通言語です。これらのデータを基にした対話が、部門間の連携を深め、全社的な改善文化を醸成します。


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