「プロダクションマネジメント」という言葉は、製造業における「生産管理」と同義で使われることが一般的です。しかし、この言葉は映像制作のようなクリエイティブ産業でも重要な役割を担っています。今回は、米ディズニー社の求人情報をきっかけに、異業種の事例から我々製造業の生産管理の本質と今後の可能性について考察します。
映像制作における「プロダクションマネジメント」
先日、ウォルト・ディズニー・カンパニーが展開するナショナルジオグラフィック部門で、「プロダクションマネジメント」職のインターン募集が公開されました。その業務内容には、「ドキュメンタリーや自然史シリーズなどの制作管理会議への参加」といった項目が挙げられています。これは、映画やテレビ番組といった映像作品の制作過程全体を管理する役割を指します。
具体的には、企画段階から予算策定、撮影スケジュールの立案・調整、スタッフや機材の手配、撮影現場の運営、そして編集から納品まで、プロジェクトの全工程に責任を持つ仕事です。製造業で言えば、製品の受注から設計、調達、製造、検査、出荷までの一連の流れを管理する「生産管理」と、その目的において非常に近い役割と言えるでしょう。
製造業の「生産管理」との共通点と相違点
両者には明確な共通点があります。それは、限られたリソース(予算、時間、人材)を最適に配分し、定められたQCD(品質、コスト、納期)を達成するという経営の根幹を担う点です。どちらの現場でも、緻密な計画立案(Plan)、計画に基づく実行(Do)、進捗の確認と評価(Check)、そして問題点の改善(Act)というPDCAサイクルが不可欠となります。
一方で、その対象とプロセスには大きな違いがあります。製造業の生産管理は、多くの場合、標準化された工程を通じて物理的な「製品」を反復的に生産します。そこでは、効率性、安定性、稼働率といった指標が重視されます。対して映像制作は、一つひとつがユニークな「作品」を生み出すプロジェクトベースの活動です。天候や出演者のコンディション、あるいは予期せぬトラブルといった不確実な要素が常に付きまといます。そのため、プロダクションマネジメントには、標準化されたプロセスを回す能力以上に、状況に応じた柔軟な判断力と、多様な専門家(監督、カメラマン、脚本家など)を束ねる高いコミュニケーション能力が求められます。
不確実性の高い環境下でのマネジメント
この「不確実性への対応」という点に、日本の製造業が学ぶべきヒントがあるかもしれません。今日の製造業は、サプライチェーンの寸断、原材料価格の変動、顧客ニーズの多様化・短サイクル化など、かつてないほど不確実性の高い環境に置かれています。従来の安定した量産を前提とした生産管理手法だけでは、対応が困難な場面も増えています。
映像制作の現場では、不測の事態は「起こるもの」として計画に織り込まれます。代替案の準備、迅速な意思決定プロセスの確立、現場での権限移譲など、変化に即応するための仕組みが重要視されます。このようなプロジェクトマネジメント的な発想は、多品種少量生産やマスカスタマイゼーション、あるいは新規事業における試作品開発といった、現代の製造業が直面する課題に応用できる可能性を秘めています。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、私たちは以下の点を再認識することができます。
1. 生産管理の本質は「QCDの達成」にあること:
業種や対象物が異なっても、QCDを最適化し、計画通りに価値を生み出すという生産管理の基本原則は普遍的です。自社の管理手法が形骸化していないか、この本質に立ち返って見直す良い機会となります。
2. 不確実性への対応力強化の必要性:
安定した生産ラインの維持管理に加え、予期せぬ変動に対応する「しなやかさ」が今後の生産管理者に求められます。トラブルを未然に防ぐリスクマネジメントと、発生した際に迅速に対応するクライシスマネジメントの両輪を強化していく必要があります。
3. 「モノづくり」から「コトづくり」への視点:
映像制作は、視聴者に感動や体験という「コト」を届けるためのプロセス管理です。製造業もまた、単に製品を作るだけでなく、製品を通じて顧客にどのような価値体験を提供できるかという「コトづくり」の視点が重要になっています。生産管理部門も、工程の効率化だけでなく、最終的な顧客価値の最大化にどう貢献できるかを考えることが、今後の付加価値向上に繋がるでしょう。


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