インド、半導体設計支援策(DLI)を推進 – サプライチェーン再編の新たな動き

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インド政府が、国内の半導体設計エコシステムの育成を目的とした「設計連携インセンティブ(DLI)スキーム」を本格化させています。これは、世界的に半導体サプライチェーンの脆弱性が指摘される中、インドをグローバルなエレクトロニクス・ハブへと押し上げるための重要な国家戦略の一環です。

インド政府が推進するDLIスキームとは

インド政府が発表した設計連携インセンティブ(DLI)スキームは、インド国内での半導体設計に関わる活動を強力に後押しするための財政支援策です。このスキームは、国内のスタートアップ企業から、インドに拠点を置くグローバル企業までを対象としており、半導体チップやシステムオンチップ(SoC)、IPコアなどの設計開発から量産化までを包括的に支援することを目的としています。

具体的には、2つの主要な支援策で構成されています。一つは「製品DLI」で、半導体製品の設計段階で必要となるEDAツールライセンス費、IPコア購入費、試作費用といった経費の最大50%を補助するものです。もう一つは「展開連携インセンティブ」で、開発した製品が市場に投入された後、5年間にわたって純売上高の4%から6%をインセンティブとして支給します。設計から事業化までを一貫して支援する、非常に手厚い内容と言えるでしょう。

スキームの背景にある狙い

この政策の背景には、半導体製造が台湾や韓国など一部の地域に極度に集中している現状への強い危機感があります。近年の地政学的な緊張やパンデミックは、この集中がグローバルなサプライチェーンにとっていかに脆弱であるかを浮き彫りにしました。多くの国が半導体の国内生産能力の強化に動く中、インドは自国の強みである豊富なIT・ソフトウェア人材を活かせる「設計」分野に注力することで、グローバルな半導体エコシステムにおける確固たる地位を築こうとしています。

インド政府は、このDLIスキームを通じて少なくとも20社の国内半導体設計企業を育成し、今後5年間で約150億ルピー(約270億円)を超える売上高を達成させるという具体的な目標を掲げています。これは単なる産業振興策にとどまらず、経済安全保障の観点からも極めて重要な一手と位置づけられています。

日本の製造業から見たDLIスキームの意義

我々日本の製造業にとって、インドのこの動きは決して対岸の火事ではありません。まず、サプライチェーンの多様化という観点から、インドが新たなパートナー候補として浮上してくる可能性が考えられます。これまで調達先が特定地域に集中していた企業にとって、インドの設計能力の向上は、リスク分散のための新たな選択肢となり得ます。

また、新たな協業の機会も生まれるでしょう。インドは優れたソフトウェア技術者を多数擁しており、その能力が半導体設計分野に向けられることで、革新的なIPコアや特定用途向けチップが生まれる土壌ができます。日本の製造業が持つ高度な製造技術や品質管理ノウハウ、あるいは自動車や産業機器といった最終製品の知見と、インドの設計能力を組み合わせることで、新たな付加価値を創出できる可能性があります。ただし、インドでの事業展開には、インフラ整備や法制度、商習慣の違いなど、乗り越えるべき課題も依然として存在します。そのため、現地の動向を慎重に見極める姿勢が求められます。

日本の製造業への示唆

今回のインドのDLIスキームは、世界の半導体サプライチェーンが大きく変化していることを改めて示す動きです。日本の製造業関係者は、この潮流を正確に理解し、自社の戦略に活かしていく必要があります。以下に、実務的な示唆を整理します。

1. サプライチェーン戦略の再評価
特定地域への依存リスクを再評価し、調達先の多様化を具体的に検討する時期に来ています。インドを、単なる市場としてだけでなく、設計・開発のパートナー、あるいは将来的な調達先としてポートフォリオに加えることを視野に入れるべきです。

2. インドの技術動向の継続的な監視
DLIスキームによって、今後インドからどのような半導体設計企業や技術が登場するのかを注視することが重要です。特に、自動車、産業機器、IoTなど、日本企業が強みを持つ分野におけるインド企業の動向は、将来の競合あるいは協業パートナーを見極める上で有益な情報となります。

3. 新たな連携モデルの模索
インドの設計能力と、日本の製造技術や品質保証体制を組み合わせる「日印連携」は、双方にメリットをもたらす可能性があります。特に、高度な信頼性が求められる製品分野において、インドで設計された半導体を日本の品質基準で評価・製造するといった協業モデルは、一つの有効な選択肢となり得るでしょう。

インドの挑戦はまだ始まったばかりですが、そのポテンシャルは無視できません。グローバルな生産体制の最適化とリスク管理は、今後ますます経営の重要課題となります。今回の動きを、自社のサプライチェーンと事業戦略を見つめ直す良い機会と捉えることが肝要です。

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