中国の航空機メーカーCOMACが、国産単通路旅客機C919の胴体延長型の開発に着手したことが報じられました。巨大な国内市場を背景に、欧米メーカーが寡占する市場での存在感を着実に高めようとしています。本稿では、この動きが持つ意味と、日本の製造業にとっての示唆を解説します。
COMACと中国東方航空、C919派生型開発で合意
中国の国営航空機メーカーである中国商用飛機(COMAC)が、国内大手の中国東方航空と協力し、単通路旅客機C919の胴体延長型(ストレッチ型)の開発に乗り出すことが明らかになりました。報道によれば、この新型機は2030年までの就航を目指しているとされています。この動きは、COMACが製品ラインナップを拡充し、エアバスA320neoファミリーやボーイング737MAXファミリーが席巻する市場での競争力を本格的に高めようとする意志の表れと見てよいでしょう。
C919の現状と胴体延長の狙い
C919は、COMACが開発した158〜192席クラスの単通路機(ナローボディ機)です。2023年に商業運航を開始したばかりの新しい機体であり、まずは中国国内の航空会社への納入が進められています。今回の胴体延長型の開発は、この基本設計をベースに、より座席数の多いモデルを市場に投入することを目的としています。具体的には、エアバス社のベストセラー機であるA321neoなどに対抗するモデルになると考えられます。
製造業の視点から見れば、プラットフォーム戦略の一環と言えます。一つの基本設計から複数の派生型を生み出すことで、開発コストを抑制しつつ、多様な市場ニーズに応えることができます。しかし、胴体を延長するということは、単に機体を長くするだけではありません。機体重量の増加に伴い、主翼構造の強化や、より推力の大きいエンジンの選定、降着装置の再設計など、多岐にわたる技術的な課題をクリアする必要があります。既存の生産ラインやサプライチェーンを、いかに効率的に派生型の製造に対応させていくか、生産技術上の手腕も問われることになります。
航空機産業における国家戦略とサプライチェーン
COMACの動きは、単なる一企業の事業戦略にとどまらず、航空機産業を国家の重要産業と位置づける中国の長期的な戦略の一環です。巨大な自国市場をテコに、まずは国内での運航実績を積み重ね、機体の信頼性を確立した上で、国際市場への進出を狙っています。C919は、エンジンやアビオニクス(航空電子機器)など、主要コンポーネントの多くを欧米のサプライヤーに依存していますが、将来的にはこれらの国産化率を高めていくことも視野に入れているでしょう。
この動向は、日本の航空機部品メーカーにとっても無視できません。これまで、ボーイングやエアバス向けのサプライヤーとして事業を展開してきた企業にとって、COMACは新たな顧客となる可能性を秘めています。一方で、中国国内でサプライチェーンが完結するようになれば、既存の取引が縮小するリスクも考えられます。中国の産業政策と技術開発の進展を、常に注視していく必要があります。
日本の製造業への示唆
今回のCOMACによるC919派生型の開発計画から、日本の製造業が読み取るべき点を以下に整理します。
1. 新たな競争環境への備え
航空機市場において、ボーイングとエアバスの複占体制に、COMACが本格的に割って入ろうとしています。これは、機体部品などを供給する日本のサプライヤーにとって、新たなビジネスチャンスであると同時に、中国国内メーカーとの価格・品質競争が激化する可能性を示唆しています。自社の技術的優位性をどこに置くか、改めて戦略を練る必要があります。
2. プラットフォーム戦略の重要性
一つの成功した製品(プラットフォーム)を基に、顧客ニーズに合わせて派生型を効率的に開発・生産する手法は、航空機産業に限りません。設計の共通化とモジュール化を進め、生産ラインの柔軟性を高めることは、多くの製造業にとってコスト競争力を維持し、市場の変化に迅速に対応するための鍵となります。
3. サプライチェーンの複層的視点
巨大市場である中国が、川下の最終製品だけでなく、川上の部品・素材産業においても内製化(国産化)を進める動きは、あらゆる産業で見られます。自社のサプライチェーンにおいて、特定地域への依存度が高まっていないか、地政学的なリスクを含めて多角的に点検し、代替調達先の確保など、供給網の強靭化を図ることが不可欠です。
4. 品質と信頼性の再認識
新しいプレイヤーが市場に参入する際、最終的に問われるのは製品の品質と長期的な信頼性です。特に人命を預かる航空機では、その重要性は計り知れません。COMACが国際的な評価を得るには、これから長い時間をかけて安全な運航実績を積み上げる必要があります。日本の製造業が長年培ってきた高い品質管理能力と、製品に対する信頼は、今後も国際競争における強力な武器であり続けるでしょう。


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