農業・食品大手のADMと化学・製薬大手のバイエルが、インドにおける持続可能な大豆栽培の取り組みを拡大しました。この動きは、自社工場から遠く離れた原料の生産段階からサステナビリティを確保しようとするものであり、日本の製造業にとってもサプライチェーン管理のあり方を考える上で重要な示唆を与えています。
グローバル企業が原料の源流に踏み込む理由
穀物メジャーであるADM(Archer-Daniels-Midland)と、農業科学分野でも知られるバイエル社は、インドのマハラシュトラ州において、持続可能な大豆栽培を推進する共同イニシアチブを拡大することを発表しました。この取り組みは、製品の品質や供給安定性を左右するサプライチェーンの最も上流、つまり農場レベルでの管理を強化しようとするものです。
彼らが焦点を当てるのは、サプライチェーンの持続可能性における5つの主要分野です。具体的には、それぞれの農地の状況に合わせた「カスタマイズされた生産管理」や、病害虫の発生を未然に防ぐことを重視した「事前散布を重視した散布プログラム」などが含まれています。これは、画一的な農法を押し付けるのではなく、現地の環境に最適化された手法を導入することで、収穫量の安定と環境負荷の低減を両立させる狙いがあると考えられます。
製造業における「源流管理」との共通点
このアプローチは、日本の製造業の現場で長年培われてきた「源流管理」の考え方と通じるものがあります。製品に問題が発生してから検査や手直しで対応するのではなく、問題が発生しないように工程の初期段階、すなわち源流から品質を作り込むという思想です。今回のADMとバイエルの取り組みは、この源流管理の考え方を、自社の工場内だけでなく、サプライチェーン全体の、それも原料の生産現場にまで適用しようとする先進的な事例と言えるでしょう。
気候変動や地政学的なリスクが高まる中、原料の安定調達はあらゆる製造業にとって最重要課題の一つです。農場レベルでの持続可能性を高めることは、単なる社会貢献活動にとどまらず、将来にわたって安定した品質の原料を確保するための、極めて戦略的な投資なのです。サプライヤー任せにするのではなく、積極的に関与し、パートナーとして共に持続可能性を追求する姿勢が、サプライチェーン全体の強靭化(レジリエンス)に繋がります。
日本の製造業への示唆
今回の事例は、日本の製造業、特に経営層やサプライチェーン、品質管理の担当者にとって、以下のような実務的な示唆を与えてくれます。
サプライチェーンの可視化と源流への遡及:
自社の直接の取引先(Tier1サプライヤー)だけでなく、その先のTier2、Tier3、さらには原料の生産地まで、サプライチェーンを可能な限り可視化し、潜在的なリスクを把握することが重要です。特に食品や化学品など、天然資源に由来する原料を扱う業界では、その重要性は一層高まります。
サステナビリティを事業継続の観点から捉える:
持続可能な調達は、環境配慮という側面だけでなく、事業継続計画(BCP)の重要な一環です。原料の供給途絶リスクを低減し、長期的な品質とコストの安定化を図るための経営戦略として位置づける必要があります。
パートナーシップによる課題解決:
サプライチェーンの上流における課題は、一社単独で解決することが困難な場合がほとんどです。今回のADMとバイエルのように、専門知識を持つパートナーや、現地のサプライヤーと強固な協力関係を築き、共に課題解決にあたるアプローチが不可欠です。これは、従来の価格と納期中心のサプライヤー管理から、価値共創のパートナーシップへと転換する必要があることを示唆しています。
自社の工場運営や品質管理で培った知見を、サプライチェーン全体へと展開していく視点を持つことが、これからの製造業には求められていると言えるでしょう。


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