かつて石炭産業で知られた米国のウェストバージニア州が、今、先進的な製造業の投資先として注目を集めています。同州製造業協会の報告から、その成功の背景にある官民一体の取り組みを読み解き、日本の製造業が置かれた状況と重ね合わせながら考察します。
衰退地域から次世代産業の集積地へ
米国のウェストバージニア州と言えば、多くの人が石炭産業を思い浮かべるかもしれません。しかし、近年の同州は、次世代電池、鉄鋼、電気自動車(EV)といった新しい分野の製造業から大規模な投資を次々と呼び込み、大きな変革を遂げています。具体的には、鉄空気電池を開発するForm Energy社、大手鉄鋼メーカーのNucor社、電気スクールバスを製造するGreenPower Motor社などが、相次いで大規模工場の建設を発表しました。これは、同州が単なる低コストの生産拠点ではなく、未来の産業を担う戦略的な場所として評価されていることを示しています。
成功を支える州政府の一貫した産業政策
この変革の背景には、ウェストバージニア州政府による長年にわたる地道な取り組みがあります。州議会と知事が党派を超えて連携し、製造業にとって魅力的な事業環境を整備してきたことが成功の大きな要因です。具体的には、法人所得税率の段階的な引き下げや、製造業が保有する在庫・設備への固定資産税の撤廃など、直接的なコスト削減に繋がる税制改革を断行しました。さらに、道路や公共インフラへの戦略的な投資、そして地域の実情に合わせた労働力育成プログラムの強化も同時に進めています。こうした一貫性のある政策が、企業の投資判断を後押ししたことは想像に難くありません。
「オール・ウェストバージニア」での取り組み
特筆すべきは、州政府のトップダウンの政策だけでなく、地域の経済団体、教育機関、そして既存の製造業者が一体となった「オール・ウェストバージニア」とでも言うべきアプローチです。製造業協会がハブとなり、企業と行政、教育機関との橋渡し役を担うことで、進出企業が必要とする人材やサプライヤー網の情報を円滑に提供できる体制を構築しています。日本の製造現場においても、新規の工場立ち上げや生産拡大の際には、地元サプライヤーとの連携や、地域の工業高校・大学との協力による人材育成が不可欠です。ひとつの企業単独の努力には限界があり、地域全体を巻き込んだエコシステムをいかに構築するかが、事業の成否を分ける重要な要素となります。
日本の製造業への示唆
今回のウェストバージニア州の事例は、日本の製造業、特に地方に拠点を置く企業や自治体にとって多くの示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。
1. 自治体との戦略的連携の重要性:
企業の設備投資や事業拡大において、立地する自治体の支援策を最大限に活用することは極めて重要です。税制優遇や補助金だけでなく、インフラ整備や許認可プロセスの迅速化など、行政との密なコミュニケーションを通じて事業環境を改善していく視点が求められます。経営層や工場長は、地域の行政担当者と日頃から対話し、協力関係を築いておくべきでしょう。
2. 地域サプライチェーンと人材育成エコシステムの構築:
自社の強みだけでなく、地域全体の強みを育て、活かすという発想が不可欠です。地元の部品メーカーや加工業者との連携を深め、サプライチェーンの強靭化を図ると同時に、地域の教育機関と連携して将来の技術者や技能者を育成する仕組みを構築することが、持続的な成長の基盤となります。
3. 産業構造の変化への能動的な対応:
ウェストバージニア州が石炭産業から次世代エネルギー関連産業へと舵を切ったように、既存の事業領域に固執するのではなく、脱炭素やDXといった大きな潮流を捉え、自社の技術やノウハウを新しい分野でどう活かせるかを常に模索する姿勢が重要です。これは、新たな事業機会の創出だけでなく、優秀な人材を惹きつける上でも有効な戦略と言えます。


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