海外の「生産管理資格」から考える、これからの工場長・生産管理者に求められる能力

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近年、インドをはじめとする新興国では「生産管理認定」のような、管理者向けの体系的な教育プログラムが提供されています。この動きは、製造業の発展に伴い、標準化されたスキルを持つ人材への需要が高まっていることを示唆しています。本稿ではこの事例をきっかけに、日本の製造業における生産管理者の役割と、これからの時代に求められる能力について考察します。

生産管理の体系的な知識とOJTのバランス

生産管理は、生産計画、工程管理、品質管理、原価管理、安全衛生管理など、工場運営に関わる極めて広範な知識と経験が求められる専門職です。日本の製造業の多くは、長年にわたり現場でのOJT(On-the-Job Training)を通じて、これらのノウハウを実践的に継承してきました。この現場主義的なアプローチは、各工場の実情に即したきめ細やかな改善活動や、深い擦り合わせ技術を生み出す源泉となってきたことは間違いありません。

しかしその一方で、知識やスキルが特定の個人に依存する「属人化」を招きやすいという課題も指摘されています。また、自社のやり方が最適であると思い込み、外部の新しい考え方や技術を取り入れる機会を逸してしまう可能性も否定できません。変化の激しい現代において、伝統的なOJTだけに頼るのではなく、生産管理の知識を体系的に学び直すことの重要性が増していると言えるでしょう。

海外における「資格認定」の動きとその背景

今回参照したインドの機関が提供する「認定製造工場長(Certified Manufacturing Plant Manager)」のような資格プログラムは、まさにこうしたニーズに応えるものです。製造業が急速に発展する国々では、即戦力となる管理者を効率的に育成するため、必要とされる知識やスキルを標準化し、第三者機関が客観的に評価する仕組みが求められます。このような資格認定は、個人の能力を証明するだけでなく、企業が人材を採用・評価する際の客観的な指標としても機能します。

日本では特定の公的な「生産管理資格」は一般的ではありませんが、こうした海外の動向は、生産管理という職務がグローバルに通用する専門領域として確立されつつあることを示しています。日本の管理者や技術者も、自らのスキルセットを客観的に見つめ直す良い機会と捉えることができるかもしれません。

これからの生産管理者に求められる新たなスキルセット

従来のQCD(品質・コスト・納期)を最適化する能力が生産管理の中核であることに変わりはありません。しかし、近年の技術革新や市場環境の変化に伴い、工場長や生産管理者には、それに加えて新たなスキルが求められています。

第一に、データ活用能力です。IoTデバイスや各種センサーから収集される膨大なデータを分析し、生産性の向上や品質の安定化、予知保全などに繋げる力が不可欠です。勘や経験だけに頼るのではなく、データに基づいた客観的な意思決定を行う能力が問われます。

第二に、デジタル技術への深い理解です。MES(製造実行システム)やERP(統合基幹業務システム)といった情報システムはもちろん、自動化を推進するロボットやAGV(無人搬送車)などの技術に関する知識も必要となります。これらの技術をいかに自社の工程に効果的に導入し、活用していくかという視点が重要です。

そして第三に、サプライチェーン全体を俯瞰する視点です。自社工場の最適化だけを考えるのではなく、原材料の調達から生産、物流、そして顧客に製品が届くまでの一連の流れを理解し、全体の効率性を高める視点が求められます。近年の地政学リスクや自然災害の頻発を鑑みれば、サプライチェーンの強靭化は経営の重要課題であり、生産管理者はその中心的な役割を担うことになります。

日本の製造業への示唆

今回の海外事例は、日本の製造業における人材育成のあり方を改めて考えるきっかけを与えてくれます。以下に、実務への示唆を整理します。

  1. 体系的知識習得の機会創出
    日本の強みである現場でのOJTを継続しつつも、それだけに依存する体制を見直す時期に来ています。生産管理の各領域(計画、品質、原価など)について、外部研修や書籍、オンラインコースなどを活用し、体系的に学ぶ機会を設けることが、管理者層の視野を広げ、変化への対応力を高めます。
  2. 次世代リーダーの計画的育成
    これからの工場長や生産管理者には、伝統的な生産管理スキルに加え、データサイエンスやデジタル技術、サプライチェーンマネジメントといった新たな知識が不可欠です。経営層は、次世代の製造現場を担うリーダーにどのような能力が必要かを定義し、計画的な教育投資を行う必要があります。
  3. 個人の自己啓発の重要性
    企業からの教育機会を待つだけでなく、現場のリーダーや技術者一人ひとりが、自らの専門性を高めるために主体的に学ぶ姿勢が重要です。海外の資格プログラムのシラバスなどを参考に、自分に不足している知識領域を把握し、自己啓発に繋げていくことが、自身の市場価値を高めることにも繋がるでしょう。

自社の強みである現場力を維持・発展させながら、いかにして体系的な知識と新たなスキルを習得していくか。このバランスを考えることが、今後の日本の製造業の競争力を左右する重要な鍵となると考えられます。

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