米国の政治家の声明の中に、国内製造業やクリーンエネルギーへの投資に関する言及が見られました。これは、サプライチェーンの再構築や経済安全保障を重視する大きな潮流の一端であり、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
政治家の発言から垣間見える産業政策の方向性
先日、米国のサマー・リー下院議員(ペンシルベニア州選出)が、外交政策に関する声明を発表しました。その中で、直接の主題とは別に、自身の選挙区であるペンシルベニア州での国内製造業(manufacturing at home)の振興や、学校周辺におけるクリーンエネルギーへの5,500万ドル超の投資実績に言及する一節がありました。
一見すると、これは地域への利益誘導をアピールする、よくある政治家の活動報告に見えるかもしれません。しかし、製造業の実務に携わる我々としては、その背景にある大きな政策の潮流、すなわち「国内製造業への回帰」と「クリーンエネルギー分野への注力」という2つの重要なテーマを読み取ることができます。特に、かつて「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれた地域から選出された議員がこの点に触れていることは、象徴的と言えるでしょう。
サプライチェーン再構築と経済安全保障
近年の米国では、インフレ抑制法(IRA)やCHIPS法に代表されるように、政府が主導して国内の製造基盤を強化する動きが顕著になっています。この背景には、コロナ禍で露呈したグローバル・サプライチェーンの脆弱性や、米中対立をはじめとする地政学リスクの高まりがあります。
重要な製品や部材を海外の特定国に依存するリスクが強く認識され、経済安全保障の観点から、生産拠点を国内や同盟国・友好国に戻す「リショアリング」や「フレンドショアリング」の動きが加速しています。今回の議員の発言も、こうした国レベルでの大きな戦略が、具体的な地域での投資や雇用創出として現れている一例と捉えることができます。
次世代産業と連携する国内回帰
注目すべきは、「国内製造業」と「クリーンエネルギー」が同時に語られている点です。現在の製造業回帰は、単に過去の工場を呼び戻すという単純な話ではありません。むしろ、電気自動車(EV)、蓄電池、半導体、再生可能エネルギーといった、今後の成長が見込まれる次世代の戦略分野において、国内でのサプライチェーンを確立しようとする狙いが明確です。
政府による巨額の補助金や税制優遇措置は、これらの分野への民間投資を強力に後押ししています。これは、他国との技術覇権争いにおいて優位に立つための国家戦略であり、企業の立地選定や投資判断に大きな影響を与えています。日本の製造業も、このグローバルな競争環境の変化に無関心ではいられません。
日本の製造業への示唆
今回の米国の動向から、日本の製造業が考慮すべき点を以下に整理します。
1. サプライチェーンの再評価と強靭化
グローバルに最適化されてきた既存のサプライチェーンは、地政学リスクに対して脆弱である可能性が改めて示されました。自社の調達網における特定国・地域への依存度を精査し、リスクを分散させるための代替調達先の確保や、生産拠点の複線化を具体的に検討する時期に来ています。特に、基幹部品や重要部材については、国内生産への回帰も視野に入れた戦略的な見直しが求められます。
2. 各国の産業政策動向の注視
米国のIRAのように、各国の産業政策が企業の競争条件を大きく左右する時代になっています。自社が事業を展開する国や、主要な市場における補助金、税制、規制などの動向を常に把握し、それらを活用または対応するための情報収集体制を強化することが不可欠です。政策の変更が、新たな事業機会にも、あるいは事業リスクにもなり得ます。
3. コスト構造の変化への備え
生産拠点の国内回帰やサプライチェーンの再編は、短期的にはコスト上昇につながる可能性があります。このコスト増を吸収し、競争力を維持するためには、生産プロセスの徹底した自動化・省人化や、デジタル技術を活用したスマートファクトリー化など、生産性向上への不断の取り組みがこれまで以上に重要になります。また、コスト競争から脱却し、技術力や品質で勝負できる高付加価値製品へのシフトも、改めて考えるべきテーマです。
4. 戦略分野における技術優位性の確保
米国が注力するクリーンエネルギーや半導体といった分野は、日本の製造業が強みを持つ分野でもあります。グローバルな競争が激化する中で、研究開発への継続的な投資を行い、技術的な優位性を維持・強化していくことが、今後の企業の成長を左右する鍵となります。他社との連携やオープンイノベーションも有効な選択肢となるでしょう。


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