韓国の現代自動車に対し、二次下請け企業の労働者を直接雇用された従業員と認める司法判断が下されました。この事例は、日本の製造業における構内請負や業務委託のあり方、特に「実質的な指揮命令」の範囲について、重要な示唆を与えています。
事案の概要:二次下請け労働者への直接雇用命令
韓国の報道によると、大手自動車メーカーである現代自動車(ヒョンデ)は、自社工場で働く二次下請け企業の従業員の地位を認めた裁判所の判決に対し、上告しました。この裁判は、二次下請け企業の従業員が、実質的には現代自動車の指揮命令下で働いており、直接雇用されるべきだと主張したものです。第一審、第二審ともに労働者側の主張が認められ、司法は現代自動車に使用者としての責任があると判断しました。
日本の製造現場においても、構内での生産業務を外部の協力会社に委託する、いわゆる「構内請負」は広く活用されています。しかし、今回の韓国の事例は、直接の契約関係にない「二次」下請けの労働者にまで元請けの責任が及ぶ可能性を示した点で、注目に値します。
争点となる「実質的な指揮命令」
請負契約が適正に運用されているか、あるいは偽装請負(実態は労働者派遣)と見なされるかの判断基準は、元請け企業から請負企業の労働者に対して「指揮命令」があったか否かです。今回の事例で裁判所が重視したのは、まさにこの「実質的な指揮命令」の有無であったと推察されます。
元記事の断片的な情報からは、現代自動車の生産管理プロセスへの関与が争点になったことがうかがえます。一般的に、製造現場では元請けの生産管理システムを下請けが利用したり、元請けの担当者が品質や進捗の確認のために下請けの作業工程に深く関与したりすることがあります。しかし、こうした行為が、単なる情報共有や発注者としての検収の範囲を超え、個々の作業員の配置や作業手順、労働時間などに具体的に指示・管理するレベルにまで及ぶと、「指揮命令関係あり」と判断されるリスクが高まります。
特に、二次下請けという契約上は距離のある関係であっても、元請け企業が構築した生産システムや管理手法がサプライチェーン全体を包括的にコントロールしており、結果として末端の作業員の働き方を実質的に規定している、と見なされた可能性が考えられます。
日本の製造業における構内請負の現状と課題
日本の製造業においても、偽装請負は長年にわたる重要なコンプライアンス課題です。労働者派遣法では、請負の形式をとりながら実態が労働者派遣である場合、発注者(元請け)に対して労働契約の申し込みをしたものとみなす「労働契約申込みみなし制度」も定められています。
現場では、生産効率や品質維持を追求するあまり、元請けの社員が善意から請負会社の従業員に直接作業の指示を出してしまったり、朝礼やミーティングに一体となって参加したり、残業を依頼したりといった光景が見られることがあります。これらの行為は、たとえ悪意がなくとも、客観的には指揮命令と解釈されかねません。今回の韓国の事例は、そうした現場での日常的なやり取りが、直接の契約関係がない二次、三次の下請け労働者との間でも問題になりうることを示唆しています。
日本の製造業への示唆
今回の現代自動車の事例は、韓国国内の法解釈に基づくものですが、日本の製造業にとっても決して他人事ではありません。この事例から、私たちは以下の点を再確認し、自社の現場管理を見直す必要があります。
契約関係を超えた「実質的な指揮命令」のリスク認識
たとえ直接の契約関係がなくとも、自社の生産システムや管理手法がサプライチェーンの下流にいる労働者の働き方を実質的に支配していると見なされれば、法的責任を問われる可能性があることを認識すべきです。サプライヤーの独立性を尊重し、あくまで業務の完成を目的とした発注者としての関係を維持することが基本となります。
生産管理・ITシステムの運用見直し
生産計画や品質情報などを共有するために、元請けのITシステムを協力会社が利用するケースは一般的です。しかし、そのシステムが個々の作業員の勤怠管理や作業割当まで管理できるような仕様になっている場合、指揮命令の一端と見なされるリスクがあります。システムの機能や運用ルールを点検し、あくまで「情報の共有」や「成果物の管理」に留める工夫が求められます。
現場でのコミュニケーションルールの徹底
最も重要なのは、現場レベルでのルール遵守です。元請け企業の従業員(社員、管理者)が、請負会社の従業員に対して直接的な作業指示や労務管理に関わる言動(例:残業の指示、休憩の指示、配置転換の示唆など)を行わないよう、改めて教育・周知を徹底する必要があります。指示系統は、必ず請負会社の責任者を通じて行うことを原則としなければなりません。
サプライチェーン全体でのコンプライアンス監査
自社のみならず、一次請負先が二次請負先をどのように管理しているかについても、関心を持つ必要があります。サプライヤーとの契約内容に、適正な請負関係の維持や労働関連法規の遵守を明記するとともに、定期的な監査などを通じて、サプライチェーン全体でのコンプライアンス体制を構築していく視点が今後ますます重要になるでしょう。


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