米国の労働安全に関する調査報告によると、製造業は依然として労働災害のリスクが高い業種の一つとして位置づけられています。本稿では、この調査結果を基に、特にリスクが高いとされる分野を概観し、日本の製造現場における安全管理のあり方について考察します。
米国の調査で示された製造業のリスク
米国の労働安全衛生に関する最新の調査結果において、製造業は建設業や運輸・倉庫業と並び、労働災害の発生件数が多い業種として報告されています。これは、多くの製造現場が重量物の取り扱いや大型機械の操作、化学物質の使用といった潜在的な危険源を内包していることに起因すると考えられます。特に、業種別で見ていくと、特定の分野にリスクが集中している傾向が見られます。
特にリスクが高いとされる製造分野
報告の中で、労働災害のリスクが高い分野として具体的に「輸送用機器製造」と「食品製造」が挙げられています。これらは日本の製造業においても基幹となる産業であり、そのリスク要因は我々の現場にとっても決して他人事ではありません。
輸送用機器製造:自動車や航空機、鉄道車両などの製造現場では、大型で重量のある部品の運搬・組立作業が頻繁に発生します。プレス加工や溶接、塗装といった工程には、それぞれ挟まれ、感電、火災、有機溶剤中毒などの固有のリスクが伴います。また、多くの作業者が関わる組立ラインでは、人と機械、人と人との接触による事故も想定されるため、多角的な安全対策が求められます。
食品製造:食品工場では、スライサーやミキサー、充填機といった機械への巻き込まれ事故が典型的なリスクとして知られています。また、床が水や油で濡れやすく転倒災害につながりやすい環境であること、高温の蒸気や熱湯、あるいは冷凍設備といった温度環境に起因する労働災害、洗浄・殺菌に使用する化学薬品の取り扱いなど、多様なリスクが混在しているのが特徴です。
労働災害が経営に与える影響
労働災害の発生は、被災された従業員やそのご家族にとって計り知れない苦痛をもたらすだけでなく、企業経営にも深刻な影響を及ぼします。生産活動の一時停止による機会損失はもとより、労災認定に伴う社会的信用の低下、従業員の士気の低下、そして人材採用における競争力の低下など、有形無形の損失は決して小さくありません。安全管理は、単なるコンプライアンス遵守にとどまらず、事業継続性の観点からも極めて重要な経営課題であると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の米国の調査結果は、日本の製造業が安全管理の重要性を再認識する上で、貴重な視点を提供してくれます。以下に、我々が実務において留意すべき点を整理します。
1. リスクアセスメントの形骸化防止と再徹底
自社の製造工程に潜む危険源を特定し、そのリスクを評価・対策するリスクアセスメントは、安全管理の基本です。しかし、一度実施しただけで形骸化していないでしょうか。設備の変更や作業手順の変更があった際には、都度見直しを行うことが不可欠です。また、過去のヒヤリハット事例や事故事例を分析し、潜在的なリスクを継続的に洗い出す活動が求められます。
2. 安全文化の醸成
安全は、ルールや手順書だけで担保されるものではありません。経営トップから現場の第一線で働く従業員一人ひとりに至るまで、「安全がすべてに優先する」という価値観が共有されている「安全文化」の醸成が重要です。経営層が安全への強いコミットメントを示し、安全活動への投資を惜しまない姿勢を見せることが、その第一歩となります。
3. 技術的対策と管理的対策の両輪
危険な作業をロボットや自動機に置き換えるといった「技術的対策」は、リスクを根本から取り除く上で非常に有効です。一方で、安全な作業手順の標準化、定期的な安全教育の実施、保護具の正しい着用徹底、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)活動の推進といった「管理的対策」も欠かすことはできません。この両輪をバランスよく回し続けることが、持続可能な安全環境を構築する鍵となります。
4. 異業種の災害事例からの学習
今回指摘された輸送用機器製造や食品製造のリスクは、他の業種の製造現場にも共通する要素を多く含んでいます。自社の業種に閉じこもることなく、他分野で発生した労働災害の事例からも謙虚に学び、水平展開できる対策はないか検討する姿勢が、現場の安全レベルを一層高めることにつながるでしょう。


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