米国カリフォルニア州で、特定の食品への葉酸添加を義務付ける法律が制定されました。この一見遠い国の出来事は、グローバルに事業を展開する日本の製造業にとって、法規制対応やサプライチェーン管理の重要性を再認識させる事例と言えるでしょう。
カリフォルニア州で制定された新たな食品規制
2024年9月に施行されるカリフォルニア州の新たな法律により、州内でトウモロコシ粉(マサ)を製造する事業者は、製品1ポンドあたり0.7ミリグラムの葉酸を添加することが義務付けられました。これは、公衆衛生上の目的から、特定の食品成分の添加を法律で規定するというものです。対象となる製造業者は、この規制に対応するため、生産体制の変更を迫られることになります。
法規制が製造現場に与える影響
この法律の背景には、神経管閉鎖障害といった胎児の先天性異常のリスクを低減させるという、明確な公衆衛生上の目的が存在します。特に、トルティーヤを主食とすることが多いヒスパニック系のコミュニティで葉酸の摂取を促す狙いがあると見られています。このような社会的な要請が、一企業の生産活動に直接的な影響を与えることは珍しくありません。
製造現場の視点から見ると、この規制遵守は決して単純な話ではありません。具体的には、以下のような多岐にわたる対応が必要となります。
1. 原材料管理:新たに添加する葉酸の調達先の選定、受け入れ検査、適切な保管方法の確立、在庫管理といった、サプライチェーンの上流から管理体制を見直す必要があります。
2. 生産プロセス:既存の生産ラインに、葉酸を正確かつ均一に添加する工程を追加しなければなりません。混合の均一性をどう担保するか、添加量をどう計測・制御するかといった、生産技術上の課題が生じます。
3. 品質管理:最終製品に含まれる葉酸が規定量を満たしているか、ロットごとに検査し、記録を残す体制が不可欠です。検査方法の確立や、検査員のトレーニングも求められるでしょう。
4. トレーサビリティ:「いつ、どのロットの葉酸を、どの製品に、どれだけ添加したか」を追跡できる仕組みは、規制当局への証明責任を果たす上で極めて重要です。
これらの対応は、新たな設備投資や人件費、管理コストの増加に直結するため、経営上の判断も伴います。
日本の製造業への示唆
このカリフォルニア州の事例は、食品業界に限らず、日本のすべての製造業にとって重要な示唆を含んでいます。
法規制・社会的要求への迅速な対応力
製品を輸出している企業にとって、海外の法規制は直接的な事業リスクです。化学物質に関するREACH規則やRoHS指令、各国の環境規制など、その動向を常に監視し、迅速に対応できる体制が不可欠です。また、国内においても、消費者の安全志向や環境配慮への要求は年々高まっており、法規制以上の自主的な取り組みが企業の競争力を左右する時代になっています。
サプライチェーン全体での品質保証
自社の管理体制を整えるだけでは十分ではありません。原材料の供給元が規制に対応しているか、仕入れ仕様の変更は必要ないかなど、サプライヤーとの緊密な連携と管理が求められます。自社のみならず、サプライチェーン全体で品質保証体制を構築するという視点が重要です。
生産プロセスの柔軟性とトレーサビリティの徹底
将来の予期せぬ規制変更や顧客要求にも対応できるよう、生産プロセスに一定の柔軟性を持たせておくことが望ましいでしょう。そして、今回の事例が示すように、トレーサビリティの確保は、規制遵守の証明だけでなく、万一の品質問題発生時に迅速な原因究明と影響範囲の特定を可能にし、企業の信頼を守るための最後の砦となります。
海外の一つの法規制を対岸の火事と捉えず、自社の品質保証やサプライチェーン管理のあり方を再点検する機会とすることが、企業の持続的な成長に繋がるのではないでしょうか。


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