製造委託で利益率20ポイント改善へ。米バイオ企業のサプライチェーン戦略に学ぶ

global

米国のIntelligent Bio Solutions社は、製造委託先とのパートナーシップを強化し、大幅なコスト削減と生産能力増強を実現しました。この事例は、自社の強みに集中し、外部リソースを戦略的に活用する重要性を示唆しています。

戦略的パートナーシップによる製造体制の再構築

革新的な診断技術を持つ米国のIntelligent Bio Solutions社(以下、INBS社)が、製造パートナーであるSyrma Johari社との提携を強化し、サプライチェーンの最適化に踏み出しました。INBS社は指紋から薬物を検出するスクリーニングシステムというユニークな製品を手がけていますが、その製造を専門企業に委託することで、経営効率の向上を目指しています。

今回の提携強化は、単なる外注関係の見直しではありません。2026年に予定されている米国市場への本格参入という大きな目標を見据え、生産能力、コスト構造、利益率を抜本的に改善するための戦略的な一手と位置づけられています。

提携がもたらす具体的な成果

INBS社の発表によれば、このパートナーシップ強化によって以下の具体的な成果を見込んでいます。

  • 製造能力の増強: 従来の4倍にあたる生産能力を確保。将来の急激な需要拡大にも対応できる体制を構築します。
  • 大幅なコスト削減: 製造コストは40%以上の削減が見込まれています。これは、委託先が持つ専門的な生産技術や部品の購買力、効率的な工場運営ノウハウを活用することで実現されるものです。
  • 粗利益率の改善: コスト削減の結果、製品の粗利益率は約20ポイントという大幅な改善が期待されています。

日本の製造業の視点から見ると、これはEMS(電子機器の受託製造サービス)活用の成功事例と言えます。特に、研究開発や設計に強みを持つ企業が、製造という工程をその道のプロフェッショナルに任せることで、自社のコアコンピタンスに経営資源を集中させるという、選択と集中の好例です。自社で大規模な設備投資を行うことなく、柔軟かつ競争力のある生産体制を確保する手法は、多くの企業にとって参考になるでしょう。

グローバル市場を見据えたサプライチェーン戦略

この取り組みの背景には、将来の市場拡大への周到な準備があります。特に、規制が厳しい医療・診断機器分野において、米国市場への参入は大きなマイルストーンです。INBS社は、本格的な拡販フェーズに入る前に、安定供給が可能な生産体制と、競争力のある価格を実現するためのコスト構造を確立しておくことが不可欠と判断しました。

信頼できる製造パートナーと早期に強固な関係を築くことは、製品の品質安定化はもちろん、市場の変動に対する迅速な対応力、すなわちサプライチェーンの強靭化にも直結します。これは、近年の地政学リスクや供給網の混乱を経験した日本の製造業にとっても、改めてその重要性が認識されている課題です。

日本の製造業への示唆

今回のINBS社の事例は、日本の製造業、特に経営層や工場運営に携わる方々にとって、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。

1. コア業務への集中と外部リソースの戦略的活用
自社の強みがどこにあるのかを改めて見極め、製造や物流といったノンコア業務については、専門性の高い外部パートナーの活用を積極的に検討する価値は大きいと言えます。それは単なるコスト削減に留まらず、経営全体のスピードと効率を高めることにつながります。

2. パートナーシップによる価値共創
製造委託を単なる「発注」と「受注」の関係で終わらせるのではなく、互いの強みを持ち寄り、共に成長を目指す「戦略的パートナーシップ」として捉える視点が重要です。委託先が持つ技術力や改善提案を積極的に引き出し、自社の製品開発や品質向上に活かしていくことで、より大きな成果が期待できます。

3. 将来を見越したサプライチェーン設計
目先のコストや納期だけでなく、数年先の事業計画や市場環境の変化を見据えて、サプライチェーンを設計することの重要性を示しています。将来の需要増、海外展開、あるいは不測の事態に備え、柔軟性と拡張性のある生産・供給体制をいかに構築しておくか。これは、企業の持続的な成長を左右する経営課題と言えるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました