米国の農業分野で、耕作と畜産を組み合わせた『統合システム』に関する議論が注目されています。一見、製造業とは無関係に見えるこの取り組みには、実は生産プロセスの全体最適化や資源の有効活用といった、我々が直面する課題解決のヒントが隠されています。
異業種における『統合システム』という考え方
先日、米国の農業メディアで報じられたのは、耕作地での放牧（Cropland Grazing）をテーマとした会議に関するニュースでした。この記事の中心にあるのは、肉牛の生産管理や栄養学、そして『統合システム（Integrated Systems）』という概念です。これは、作物を育てる耕種農業と、家畜を飼育する畜産という、従来は別々に考えられがちだった二つの領域を連携させ、全体の効率と持続可能性を高めようとするアプローチです。例えば、収穫後の畑に家畜を放牧し、残った茎や葉を飼料として活用する。そして、家畜の排泄物は畑の肥料となり、土壌の質を向上させる。このように、それぞれのプロセスが持つ資源や副産物を相互に活用し合うことで、コストを削減し、環境負荷を低減しながら、全体の生産性を向上させることを目指しています。
製造業の現場における『統合』の可能性
この農業における『統合システム』の考え方は、日本の製造業の現場にも多くの示唆を与えてくれます。我々の工場内でも、部門や工程が縦割りになり、それぞれが部分最適を追求した結果、工場全体としては非効率が生じているケースは少なくありません。例えば、生産部門と設備保全部門の連携が挙げられます。生産効率を追求するあまり設備のメンテナンスが後回しにされ、結果的に突発的な故障による長時間停止（ドカ停）を招いてしまうのは典型的な例です。TPM（Total Productive Maintenance）活動における『自主保全』は、オペレーターが生産活動と一体で日常的な設備メンテナンスを担うことで、まさにこの二つの機能を統合し、設備効率の全体最適を目指す取り組みと言えるでしょう。また、前工程で発生する排熱を後工程の乾燥プロセスで利用したり、加工時に発生する端材を別の製品の原材料として再利用したりすることも、工程間を統合的に捉えた資源活用の好例です。これらは個別の改善活動に留まらず、工場全体を一つのシステムとして捉え、エネルギーや資源の流れを最適化する視点に基づいています。
システム思考に基づく全体最適の追求
農業の事例で『コストとリターン』が重要な論点となっているように、製造業においても統合による効果は、定量的かつ客観的に評価される必要があります。ある工程での改善が、別の工程に予期せぬ負荷をかけてしまい、結果として全体の生産性を下げてしまう『モグラ叩き』のような状況を避けるためには、個別のKPIだけでなく、工場全体、ひいてはサプライチェーン全体のスループットや収益性といった上位の指標で判断することが不可欠です。各部門が持つ専門性を尊重しつつも、その壁を越えて情報や資源を共有し、システム全体としてのアウトプットを最大化する。この『システム思考』こそが、複雑化する現代の製造業において持続的な競争力を維持するための鍵となります。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の取り組みから、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。
1. 視点の転換と学びの機会：
自社の業界の常識に囚われず、農業のような異業種における効率化やシステム化の事例にも目を向けることが、新たな発想や改善のヒントに繋がります。一見無関係に見える取り組みの背景にある思想や哲学を読み解くことが重要です。
2. プロセス統合による価値創出：
部門間・工程間の壁を取り払い、エネルギー、副産物、情報、さらには人材といった経営資源を統合的に活用する視点を持つべきです。これにより、コスト削減や生産性向上だけでなく、環境負荷低減といった社会的な価値も同時に創出できる可能性があります。
3. 『全体最適』の徹底：
現場の改善活動から経営判断に至るまで、常に「それは会社全体のパフォーマンス向上にどう貢献するのか」という問いを持つことが求められます。部分最適の罠に陥ることなく、サプライチェーン全体を含めた大きな視野で物事を捉える文化を醸成することが、今後の工場運営の要諦となるでしょう。
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