韓国における労働時間記録の義務化 – 日本の製造業が改めて向き合うべき勤怠管理の課題

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韓国において、労働時間の記録・管理を義務化する動きが報じられています。これは、特に管理リソースが限られる中小企業にとって大きな課題となりますが、同様の状況は日本の製造業にとっても決して他人事ではありません。本稿ではこの動向を基に、日本の製造現場が直面する労働時間管理の本質的な課題と、その対応策について考察します。

韓国で表面化する中小企業の管理負担

先日、韓国で労働時間の記録が義務化される方向性が報じられ、特に中小企業における対応の難しさが指摘されています。報道によれば、営業職や生産管理といった、必ずしも定型的な時間管理に馴染まない職務についても時間単位での労働実態を把握する必要があり、専門の管理担当者を置く余裕のない企業にとっては、人件費が上昇する中での新たな負担増として懸念されています。これは、法令遵守と事業運営の現実との間で苦慮する企業の姿を浮き彫りにしています。

日本の製造業における労働時間管理の現状

この話は、我々日本の製造業にとっても示唆に富むものです。日本でも「働き方改革関連法」により、2019年4月から労働時間の客観的な把握がすべての企業に義務付けられました。多くの工場では、製造ラインの作業者についてはタイムカードや入退室記録によって比較的厳密な管理が行われています。しかし、問題はむしろ、生産技術、品質管理、設計開発、あるいは工場全体の運営を担う間接部門の従業員です。

これらの職務は、突発的なトラブル対応や、創造性・思考を要する業務が多く、単純な時間で成果を測ることが難しい側面があります。結果として、勤怠記録上は定時退社となっていても、実際には持ち帰り残業やサービス残業が発生しているケースも少なくありません。管理側もその実態を正確に把握しきれておらず、管理が形骸化しているという声は多くの現場で聞かれます。

管理は「監視」ではなく「改善」のツール

労働時間の管理は、単に法令を遵守するためだけの消極的な義務ではありません。本来の目的は、従業員の健康を守り、過重労働を防ぐと同時に、非効率な業務プロセスを可視化して生産性を向上させることにあります。どの業務にどれだけの工数がかかっているのか、特定の部署や個人に負荷が偏っていないか、といったデータを正確に把握することは、的確な人員配置や業務改善、設備投資の判断材料となり得ます。

しかし、韓国の事例が示すように、正確な記録を維持するための管理コストが、本来投下すべき改善活動のリソースを圧迫するというジレンマも存在します。手作業による集計や自己申告に頼る管理方法では、正確性の担保が難しいだけでなく、管理者・従業員双方の負担を増大させてしまいます。この課題を乗り越えるためには、テクノロジーの活用が不可欠と言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の韓国の動向を踏まえ、日本の製造業が改めて認識すべき要点と実務への示唆を以下に整理します。

1. 法令遵守の再徹底と実態把握:
労働安全衛生法に基づく労働時間の客観的把握は、企業の法的責務です。タイムカードの打刻だけでなく、PCのログ記録や入退室記録などを活用し、申告された時間と実態に乖離がないかを確認する体制が求められます。特に、これまで管理が曖昧になりがちだった間接部門や専門職の労働実態を直視することが重要です。

2. DXによる管理業務の効率化:
勤怠管理システムや工数管理ツールといったデジタル技術を導入し、データ収集・集計の自動化を図るべきです。これにより、管理部門の負担を軽減し、より付加価値の高い分析や改善活動に注力できるようになります。近年では、スマートフォンアプリで手軽に打刻・工数入力ができるツールも増えており、中小企業でも導入しやすくなっています。

3. 収集したデータの戦略的活用:
把握した労働時間や工数のデータは、経営資源そのものです。これを分析し、「どの製品の製造に想定以上の時間がかかっているか」「間接業務のどの部分にボトルネックがあるか」といった課題を定量的に特定し、業務プロセスの見直しや的確な人員増強に繋げることが、企業の競争力を高める上で不可欠です。

4. 健全な職場文化の醸成:
長時間労働を是とせず、効率的に業務を遂行することを評価する文化を育てることが、あらゆる施策の根幹となります。経営層が明確な方針を示し、時間管理の重要性を全社で共有することが、実効性のある取り組みへの第一歩となります。

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