電源ユニットで世界的なシェアを誇る台湾のDelta Electronics社は、近年、産業オートメーション(FA)分野でもその存在感を増しています。同社の包括的な製品ポートフォリオは、昨今のスマートファクトリー化の潮流を色濃く反映しており、日本の製造業にとっても示唆に富むものです。本稿では、同社の製品群を俯瞰し、その戦略と日本の製造現場への影響を考察します。
総合FAコンポーネントメーカーとしてのDelta
Delta Electronics(以下、Delta)といえば、多くの技術者にとってはスイッチング電源や冷却ファンといった電子部品のメーカーという印象が強いかもしれません。しかし、同社は長年にわたり産業オートメーション(IA)事業を強化しており、現在では工場自動化に不可欠なコンポーネントを幅広く手掛ける総合メーカーへと変貌を遂げています。その製品群は、工場のスマート化、いわゆるスマートファクトリーの実現に必要な要素を網羅しようという明確な意志が感じられます。
日本国内では、FA分野というと三菱電機、安川電機、オムロン、キーエンスといった企業が圧倒的な存在感を示していますが、Deltaはグローバル市場、特にアジア圏においてコストパフォーマンスを武器に急速にシェアを伸ばしてきました。電子部品で培った電源技術や制御技術を基盤に、M&Aなども活用しながら製品ラインナップを拡充してきた点は、台湾企業らしいスピード感と言えるでしょう。
主要製品群から見る事業戦略
Deltaの産業オートメーション製品は、大きく「ドライブ・モーション・制御」「産業用制御・通信」「ロボティクス」そしてそれらを統合するソフトウェア群に分類できます。これは、スマートファクトリーの階層構造である「現場の制御層」から「データを収集・活用する情報層」までを一気通貫でカバーしようとする戦略の表れです。
具体的には、ACサーボドライブやモーター、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)、HMI(ヒューマンマシンインタフェース)といった、自動機の心臓部となる基本的なコンポーネントを堅実に揃えています。これらは、あらゆる生産設備の動きを司る基幹部品であり、ここの品揃えを厚くすることで、様々な自動化ニーズに対応する基盤を固めています。
さらに注目すべきは、マシンビジョンシステム、各種センサー、産業用PC、ネットワーク機器といった、IoT化に不可欠な製品群です。生産現場の「目」や「神経」として機能するこれらの機器は、単に機械を動かすだけでなく、稼働状況のデータ収集や品質検査の自動化を可能にします。ハードウェアとしてのロボット(スカラ型、垂直多関節型)まで自社で提供している点は、同社が単なる部品メーカーではなく、自動化ソリューションの提供者を目指していることを明確に示しています。
日本の製造業から見た評価と活用
では、日本の製造業の現場において、Delta製品はどのような位置づけになるでしょうか。まず考えられるのは、コストを重視する設備投資における選択肢です。国内主要メーカーの製品は高性能・高信頼性で定評がありますが、オーバースペックとなる場合も少なくありません。特定の用途に特化した専用機や、コスト競争力が求められる生産ラインにおいては、Deltaのような海外メーカー製品を検討する価値は十分にあります。
一方で、導入にあたってはサポート体制やドキュメントの整備状況、既存設備との親和性などを慎重に評価する必要があります。長年の実績がある国内メーカーは、技術サポートや保守部品の入手性、日本語での情報提供といった面で依然として優位性があります。現場の技術者がトラブル対応に追われることなく、スムーズに運用できるかどうかは、トータルコストを考える上で重要な判断基準となります。
また、昨今の半導体不足に端を発する部品の納期遅延は、多くの企業にとって深刻な課題です。特定のメーカーにサプライチェーンを依存するリスクを分散させる観点から、代替・補完的な調達先としてDeltaのようなグローバルメーカーを評価しておくことは、事業継続計画(BCP)の観点からも有効な一手と考えられます。
日本の製造業への示唆
Delta社の事業展開は、我々日本の製造業にいくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. FAコンポーネントの垂直統合とワンストップ化: センサーから制御機器、駆動系、ロボット、さらにはソフトウェアまでを一社で提供する「ワンストップソリューション」の流れは、今後さらに加速するでしょう。これにより、システムインテグレーションの複雑さが軽減され、中小企業でも高度な自動化システムを導入しやすくなる可能性があります。
2. 要求仕様とコストの再評価: 高性能・高信頼性を追求してきた日本のものづくりですが、グローバルなコスト競争の中で、常に最高仕様の部品が必要とは限りません。設備の目的やライフサイクルコストを考慮し、最適な機能と価格のバランスを見極める視点が、設備投資において一層重要になります。
3. サプライチェーンの多様化と強靭化: 特定のサプライヤーへの依存は、予期せぬ供給リスクに直結します。国内外の多様なメーカーの製品を評価し、いつでも代替案を検討できる体制を整えておくことは、生産の安定化に不可欠です。
4. 技術者に求められるスキルの変化: 今後は、特定メーカーの製品知識に精通しているだけでなく、異なるメーカーの機器を組み合わせて最適なシステムを構築できる、オープンな技術知識が求められます。EtherCATのようなオープンな産業用ネットワークの知識や、多様な機器を俯瞰的に評価する能力は、これからの生産技術者にとって重要なスキルセットとなるでしょう。


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