半導体製造の現在地:需要構造の変化とサプライチェーン再編の動き

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昨今、半導体製造を巡る話題が各方面で活発になっています。コロナ禍での供給不足に端を発し、現在ではAIやデータセンター、EVといった新たな需要の波が、その重要性を一層高めています。本稿では、現在の半導体製造を取り巻く環境を整理し、日本の製造業が留意すべき点について解説します。

需要を牽引する新たな主役たち

かつて半導体需要の中心は、PCやスマートフォンでした。しかし現在、その構造は大きく変化しています。生成AIの普及を支える高性能コンピューティング(HPC)や大規模データセンター、そして自動車の電動化(EV)や自動運転技術の進化が、新たな需要の牽引役となっています。これらは、単に大量の半導体を必要とするだけでなく、極めて高い処理能力を持つ最先端のロジック半導体や、電力制御に不可欠なパワー半導体など、特定の機能に特化した高性能な半導体を求めます。日本の製造業、特に自動車や産業機械、電機メーカーにとって、これらの高性能半導体をいかに安定的に確保するかは、製品の競争力を左右する重要な経営課題となっています。

地政学が揺るがすサプライチェーン

コロナ禍で露呈したのは、特定地域に依存する半導体サプライチェーンの脆弱性でした。この教訓から、米国がCHIPS法を制定するなど、各国は自国内での半導体生産能力の確保に大きく舵を切っています。これは単なる経済政策ではなく、経済安全保障という国家戦略の一環です。台湾有事などの地政学的リスクも常に念頭に置かねばならず、これまで効率性を最優先してきたグローバルな水平分業モデルは、大きな見直しを迫られています。日本の製造業においても、調達先の多様化や在庫戦略の見直し、さらには国内生産回帰の動きなどを、BCP(事業継続計画)の観点から真剣に検討する必要があるでしょう。

微細化の先を見据えた技術革新

半導体の性能向上を支えてきた「微細化」は、物理的な限界と莫大な開発・製造コストに直面しつつあります。EUV(極端紫外線)リソグラフィといった最先端技術は、ごく一部の企業しか手掛けられない状況です。こうした中、複数の異なる機能を持つチップ(チップレット)を高密度に実装する「3D実装」のような、後工程(パッケージング)における技術革新の重要性が増しています。これは、前工程だけでなく後工程の技術力も製品の付加価値を大きく左右することを意味します。日本の強みである素材や製造装置、そして長年培ってきた精密な実装技術は、こうした新しい技術潮流の中で再び大きな役割を果たす可能性があると考えられます。現場レベルでは、これらの新技術に対応するための設備投資や、高度な知見を持つ技術者の育成が急務と言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の解説を、日本の製造業の実務に落とし込むと、以下の3点が重要な示唆となります。

1. 自社製品と半導体の関係性の再定義
自社の製品がどのような半導体を必要とし、そのサプライチェーンがどのようなリスクを抱えているのかを、改めて詳細に把握することが求められます。特に、AIやIoT、電動化といったトレンドの中で、これまで以上に高度で多様な半導体が不可欠になってきています。調達部門だけでなく、設計・開発部門も巻き込んだ全社的な戦略が不可欠です。

2. サプライチェーンの強靭化とBCPの見直し
地政学的リスクは、もはや一時的な懸念事項ではなく、事業運営における「定数」と捉えるべきです。特定の国やサプライヤーへの依存度を低減し、調達ルートの複線化や代替品の評価、国内での生産協力体制の構築などを具体的に進める必要があります。これはコスト増につながる可能性もありますが、事業継続のための保険として捉えるべき投資と言えるでしょう。

3. 新たな技術潮流への対応と事業機会の模索
半導体技術の進化は、微細化一辺倒ではなく、パッケージング技術など多岐にわたっています。自社の技術力が、この新しい潮流の中でどのように貢献できるのかを検討する好機です。特に、日本の装置メーカーや素材メーカーにとっては、新たな事業機会が広がっています。また、ユーザー企業側も、これらの新技術を応用することで、製品の性能向上や小型化、省電力化といった新たな付加価値を創出できる可能性があります。

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