アフリカ・エチオピアにおいて、3万人以上の農家の家畜飼料不足を解消した農業支援プロジェクトが報告されました。一見、日本の製造業とは縁遠い話題に見えますが、その背景とアプローチには、気候変動時代におけるサプライチェーンの安定化や持続可能な事業運営を考える上で、重要なヒントが隠されています。
エチオピアにおける飼料不足問題と包括的支援プロジェクト
アフリカの農業関連メディアによると、「アフリカのためのCGIAR気候研究インパクト加速化(AICCRA)」プロジェクトが、エチオピアで31,900人以上の農家を対象に、深刻な家畜飼料不足の問題解決に貢献したと報告されています。このプロジェクトの特筆すべき点は、単に新たな飼料作物を提供するだけでなく、その「生産、管理、利用、そして種子システム」に至るまで、包括的なアプローチをとったことにあります。気候変動による干ばつなどが飼料生産に影響を与える中で、生産基盤そのものを安定させることを目指した取り組みと言えるでしょう。
「点」ではなく「システム」で捉えるアプローチの有効性
この事例から我々が学ぶべきは、課題解決における「システム思考」の重要性です。飼料不足という課題に対し、高性能な種子を配布する(点)だけでなく、栽培方法(生産)、収穫後の貯蔵(管理)、効率的な給餌(利用)、そして持続的な種子供給体制(種子システム)という一連の流れ(システム)全体を改善の対象としています。これは、日本の製造業の現場における改善活動と軌を一にするものです。例えば、最新鋭の工作機械を一台導入しても、前後の工程との連携や作業者の技能、生産計画が伴わなければ、その性能を十分に引き出すことはできません。生産ライン全体、ひいては工場全体の生産性を向上させるには、常にプロセス全体を俯瞰し、ボトルネックを解消していく視点が不可欠です。このプロジェクトは、分野は違えど、まさにその原則を実践した好例と言えます。
気候変動という不可避なリスクへの向き合い方
このエチオピアの事例の背景には、気候変動というグローバルな課題が存在します。これはもはや対岸の火事ではありません。日本の製造業においても、異常気象による原材料の不作や品質低下、海外の生産拠点や物流網の寸断といったリスクは年々高まっています。特定の国や地域からの部品・原材料調達に依存している場合、その地域での干ばつや洪水は、即座に自社の生産停止リスクに直結します。エチオピアの農家が、気候変動に適応し、事業の基盤である飼料の安定確保に取り組んだように、我々製造業も、自社のサプライチェーンの脆弱性を真摯に評価し、その強靭化(レジリエンス)を図ることが喫緊の経営課題となっています。これは、事業継続計画(BCP)をより広い視野で捉え直すことに他なりません。
日本の製造業への示唆
この一連の報告から、日本の製造業が実務レベルで得るべき示唆を以下に整理します。
1. サプライチェーンの脆弱性評価と対策の具体化
地政学リスクに加え、気候変動リスクという新たな軸で、自社のサプライチェーンを再評価することが求められます。主要な原材料や部品について、調達先の気候・自然災害リスクを把握し、調達先の複線化、代替材料・技術の開発、国内生産への回帰の検討など、具体的な対策を講じる必要があります。
2. 現場起点のシステム改善の再徹底
個別の課題解決(点)に留まらず、原材料の調達から生産、物流、販売に至るバリューチェーン全体を俯瞰し、改善を進める「システム思考」が改めて重要になります。これは、昨今推進されているDX(デジタルトランスフォーメーション)においても同様です。個別のツール導入に終わらせず、業務プロセス全体の最適化という視点を忘れてはなりません。
3. サステナビリティを事業継続性の基盤と捉える
サプライチェーンの上流に位置する農家や地域社会の持続可能性が、最終的には自社の事業の持続可能性に直結するという認識を持つことが重要です。ESG経営やサステナビリティへの取り組みを、単なる社会的要請への対応や報告書作成のためと捉えるのではなく、自社の事業基盤を強化するための本質的な活動として、実務に落とし込んでいく視点が求められます。


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