電子機器の受託製造サービス(EMS)で世界最大手の一角を占める米サンミナ社が、クラウドベースのMES(製造実行システム)である「42Q」に注力しています。この動きは、自社の製造ノウハウを外部に提供するというだけでなく、今後の工場におけるデータ活用のあり方を示唆するものとして注目されます。
EMS大手が提供するクラウドMES「42Q」とは
米サンミナ社は、世界中のエレクトロニクス企業から製品の製造を請け負うEMS(Electronics Manufacturing Services)のグローバルリーダーです。同社が近年、戦略的に展開しているのが「42Q」というクラウドベースのMES(製造実行システム)ソリューションです。これは、もともとサンミナ社が自社のグローバルな工場網を管理・運営するために開発したシステムを、顧客や他の製造業にも提供するものです。
42Qの大きな特徴は、クラウドネイティブなサービスである点です。これにより、世界中に点在する複数の工場から生産実績、品質、設備稼働状況といったデータをリアルタイムに収集・統合し、一元的に可視化することが可能になります。従来のオンプレミス型のMESでは実現が難しかった、グローバル規模での迅速なデータ連携を前提とした設計思想が根底にあります。
なぜEMSがMESソリューションを提供するのか
通常、MESはソフトウェアベンダーやシステムインテグレーターが開発・提供するものです。しかし、サンミナ社のような製造の当事者、特に多種多様な製品を世界中の拠点で生産するEMSが自らソリューションを提供する背景には、重要な意味があります。
EMSの現場では、日々、異なる顧客の、異なる仕様の製品を、最も効率的な方法で生産することが求められます。そこでは、生産ラインの迅速な立ち上げ、歩留まりの改善、品質の安定化、トレーサビリティの確保といった、製造業が直面するあらゆる課題が凝縮されています。42Qは、こうしたサンミナ社自身の厳しい要求に応える過程で磨き上げられた、いわば「現場生まれ」のシステムです。机上の空論ではない、実用性に裏打ちされた機能やノウハウが組み込まれている点が、ITベンダーが提供するMESとの大きな違いと言えるでしょう。
グローバルなデータ統合がもたらす価値
サンミナ社が「コネクテッド・マニュファクチャリング(つながる製造)」と呼ぶこの仕組みは、単にデータを集めるだけではありません。複数拠点のデータを同じ基準で比較・分析することで、拠点ごとのパフォーマンスの違いや問題点を客観的に把握できます。例えば、ある工場で成功した改善策(ベストプラクティス)を、データを基に他の工場へ迅速に横展開するといった活用が考えられます。
また、サプライチェーン全体での品質管理やトレーサビリティの向上にも寄与します。顧客企業の工場も含めてデータを統合することで、製品や部品に問題が発生した際に、どの工場のどの工程に原因があったのかを迅速に特定し、影響範囲を最小限に抑えることが可能になります。これは、グローバルにサプライチェーンを構築している日本の製造業にとっても、無視できない価値を持つはずです。
日本の製造業への示唆
サンミナ社のこの取り組みは、日本の製造業にとってもいくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. MESのクラウド化とSaaS化の流れ:
従来、多額の初期投資が必要だったMESの導入が、クラウドベースのSaaS(Software as a Service)として提供されることで、より導入しやすくなる可能性があります。特に、海外に複数の生産拠点を持ち、拠点間の情報連携に課題を抱える企業にとって、有力な選択肢となり得ます。また、中小規模の企業でも、自社の規模に合わせた利用が可能になるかもしれません。
2. 「使う側」が提供するソリューションの価値:
システムの導入・選定において、ITベンダーの提案だけでなく、サンミナ社のように製造現場での実践から生まれたソリューションにも目を向ける価値があります。自社のDXを推進する上でも、単にツールを導入するのではなく、現場の知見やノウハウをいかにシステムに反映させるか、という視点がこれまで以上に重要になるでしょう。
3. データ統合の範囲の拡大:
これからの工場運営では、自社工場内のデータ連携に留まらず、国内外の自社拠点、さらには顧客やサプライヤーといった社外のパートナーをも含めた、サプライチェーン全体でのデータ統合が競争力の源泉となります。サンミナ社の動きは、その潮流が本格化しつつあることを示す一つの兆候と捉えることができます。


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