製造業の販売金融が変わる:「組み込み型融資」がもたらす顧客体験と業務効率化

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高額な産業機械などを扱う製造業にとって、販売金融は顧客の購入を後押しする重要な手段です。本稿では、製品の購入プロセスに融資機能を統合する「エンベデッド・レンディング(組み込み型融資)」の動向と、それが日本の製造業にもたらす影響を解説します。

製造業における販売金融の現状と課題

工作機械や建設機械、医療機器といった高額な資本財を扱うメーカーにとって、販売金融は顧客の購入を後押しする重要な手段です。多くの大手企業は自社で金融子会社(キャプティブ・ファイナンス)を持ち、リースやローンを提供しています。しかし、その実務は、見積もり取得、与信審査、契約書面の取り交わしなど、多くの手作業と時間を要するのが実情ではないでしょうか。特に、営業担当者と審査部門、顧客との間で何度も書類のやり取りが発生し、最終的な契約締結までに数週間を要することも珍しくありません。この時間的なロスは、顧客の投資意欲を削ぎ、貴重な販売機会を逃す一因ともなり得ます。

新たな潮流「エンベデッド・レンディング(組み込み型融資)」とは

こうした課題を解決する動きとして、欧米を中心に「エンベデッド・レンディング(組み込み型融資)」と呼ばれるソリューションが注目されています。これは、製品の購入手続きを行うウェブサイトや業務システムの中に、融資の申し込みから審査、契約までの機能が「組み込まれている」仕組みを指します。顧客は、製品を選定するその場で、同時に融資のシミュレーションや申し込みを完結させることができます。

例えば、米国のQuickFi社が提供するプラットフォームでは、顧客企業がスマートフォンやPCから24時間365日、セルフサービスで融資を申し込むことが可能です。申し込みから数分で審査結果が通知され、電子署名で契約が完了します。これまで営業担当者や事務担当者が担っていた煩雑な手続きを、テクノロジーによってほぼ完全に自動化するものです。

顧客体験の向上と販売サイクルの短縮

この仕組みがもたらす最大の利点は、顧客体験の劇的な向上です。設備投資を検討する企業にとって、資金調達のスピードは事業計画の遂行を左右します。購入を決断してから融資が実行されるまでの時間が数週間から数分に短縮されれば、事業計画を迅速に進めることができます。あたかもECサイトで商品を購入するような手軽さで、高額な設備投資の意思決定が可能になるのです。

メーカー側にとっては、販売サイクルの短縮に直結します。金融手続きの遅れによって商談が停滞することがなくなり、営業担当者は本来注力すべき製品の提案や顧客との関係構築に多くの時間を使えるようになります。結果として、販売機会の拡大と、それに伴う売上向上に繋がることが期待されます。

日本の製造業への示唆

この「組み込み型融資」の潮流は、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。

1. 販売プロセスのDX(デジタルトランスフォーメーション): 製品の性能や品質だけでなく、購入プロセス全体の顧客体験が競争優位性を左右する時代になっています。金融手続きのデジタル化は、顧客満足度を向上させ、他社との差別化を図る上で不可欠な要素となりつつあります。

2. 金融子会社の役割再定義: 金融子会社や販売金融部門は、単なる与信管理や債権回収の部署ではなく、販売を促進するための戦略的なパートナーとしての役割がより一層求められます。定型的な事務作業を自動化し、より付加価値の高い業務へリソースをシフトさせることが重要です。

3. 中小メーカーにおける可能性: 自社で金融機能を持たない中小のメーカーであっても、外部のFinTech企業が提供するサービスと連携することで、同様の仕組みを導入できる可能性があります。これは、新たな販売チャネルを開拓し、大手と伍していくための有力な選択肢となり得るでしょう。

4. データ活用の深化: 販売データと金融データをシームレスに連携させることで、顧客の購買行動や資金需要をより深く理解することができます。このデータを活用し、個々の顧客に最適化された提案や、新たな製品・サービスの開発に繋げていくことも視野に入れるべきです。

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