英国の金融行動監視機構(FCA)が「共同製造業者」に関する新たな見解を発表しました。これは金融業界の規制ですが、その根底にある「サプライチェーン全体で最終消費者の利益を守る」という考え方は、日本の製造業においても、今後の製品開発やパートナーシップのあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれます。
英国FCAが示す「共同製造業者」の新たな解釈
英国の金融行動監視機構(FCA)は、複数の企業が関与して一つの金融商品を組成・提供する場合の「共同製造業者(co-manufacturers)」の責任範囲について、新たな解釈を示した声明を発表しました。これはFCAが導入した「消費者義務(Consumer Duty)」という、企業に対して顧客へのより高い水準の配慮と保護を求める包括的な規制の一環です。
日本の製造業に置き換えて考えれば、これは完成品メーカーと部品メーカー、あるいは共同で製品を開発するパートナー企業間の関係性に相当します。特に、どちらが主導するというより、両社が協力して製品の仕様決定や設計に深く関与するケースが、この「共同製造業者」の概念に近いと言えるでしょう。FCAは、こうしたケースで各社の責任範囲が曖昧になりがちであり、結果として最終消費者の利益が損なわれるリスクを問題視しています。
製品ガバナンスと「良い結果」をもたらす責任
この議論の核心にあるのが、「製品ガバナンス」と「消費者義務」という考え方です。製品ガバナンスとは、製品の企画・設計から販売、アフターサービスに至るまで、製品ライフサイクル全体を通じて、その製品がターゲットとする顧客にとって適切な価値を提供し続けるための管理体制を指します。
そして「消費者義務」は、単に欠陥のない製品を供給するという従来の品質保証の概念を一歩進め、製品やサービスが最終消費者に「良い結果(good outcomes)」をもたらすことまでを求めるものです。つまり、自社が供給する部品や技術が、最終製品として消費者の手元に届いたときに、期待された性能を発揮し、消費者の課題解決や満足に繋がっているか、という視点が問われることになります。
書面による責任分担の明確化が不可欠に
FCAの声明では、共同製造業者間で、それぞれの役割と規制上の責任を明確に定めた「書面による合意」を締結することを求めています。これは、問題が発生した際の責任の押し付け合いを防ぎ、サプライチェーンの各段階で主体的に消費者保護を実践する体制を構築することが目的です。
日本の製造業においても、取引基本契約や品質保証協定などで役割分担を定めていますが、今後はより踏み込んだ合意形成が求められる可能性があります。例えば、ある部品を供給するメーカーは、その部品の品質仕様を満たすだけでなく、その部品が組み込まれた最終製品がターゲット市場の規制や消費者の期待に適合しているかについても、一定の責任を負うという考え方です。そのためには、完成品メーカーからの情報開示と、部品メーカー側からの積極的な情報収集・確認が、これまで以上に重要になるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の英国金融業界の動向は、他国の特定分野の規制ではありますが、その背景にある思想はグローバルな潮流となりつつあります。日本の製造業がこの動きから汲み取るべき実務的な示唆を以下に整理します。
1. サプライチェーン全体での価値創造意識の向上
自社がサプライチェーンの一部であるという認識を新たにし、最終製品が顧客にどのような価値を提供するかを常に意識する必要があります。特に、BtoBの部品や素材メーカーであっても、自社製品が最終的にどのような「良い結果」に貢献するのかを設計・開発段階から考慮に入れる視点が求められます。
2. パートナー企業との契約・協定内容の見直し
OEM/ODM供給元や重要なサプライヤーとの間では、従来の品質責任の範囲に加え、製品の企画意図やターゲット顧客に関する情報を共有し、それに基づいた責任分担を契約や協定に明記することが望まれます。責任の所在を明確にすることは、リスク回避だけでなく、より強固なパートナーシップの構築にも繋がります。
3. 設計・開発段階からの連携強化と情報共有
最終製品のコンセプトや用途、想定される使われ方といった情報を、企画の初期段階からサプライヤーと密に共有する体制が不可欠です。これにより、サプライヤーは単なる「図面通り」の製造に留まらず、より最終製品の価値向上に貢献する提案や、潜在的なリスクの指摘などが可能になります。
4. トレーサビリティの先に「価値の連鎖」を
製品のトレーサビリティは、問題発生時の原因究明だけでなく、サプライチェーン全体でどのように価値が作り上げられてきたかを可視化するツールにもなり得ます。各社が責任範囲を明確にすることで、品質だけでなく「顧客価値」という視点での連鎖を構築していくことが、今後の製造業の競争力を左右する重要な要素となるでしょう。


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