生産性向上と社会的包摂の両立:国連開発計画(UNDP)の企業支援プログラムに学ぶ

global

国連開発計画(UNDP)が展開する企業支援プログラムは、生産性の改善といった実務的な課題解決と、社会的包摂(インクルージョン)の促進を同時に目指すものです。このアプローチは、人手不足やサプライチェーンの持続可能性といった課題に直面する日本の製造業にとって、示唆に富むものと言えるでしょう。

国際機関が取り組む企業の「現場改善」

国連開発計画(UNDP)が中南米などで展開する社会保護プログラムの一環として、現地企業の競争力強化を支援する取り組みが行われています。このプログラムが興味深いのは、その支援内容が、私たち製造業の人間にとって非常に馴染み深いものである点です。具体的には、「生産改善」「管理手法の改善」「新市場へのアクセス」という3つの柱が掲げられています。

これらは、日本の工場で日々行われている「カイゼン」活動や、経営層が取り組む経営改革そのものです。国際的な開発支援の現場においても、地道な生産性向上の取り組みや、体系的な管理手法の導入が、企業の成長、ひいては地域経済の発展に不可欠であると認識されていることがわかります。自社の生産プロセスや管理体制を客観的に見直し、改善を続けることの普遍的な重要性を再認識させられます。

もう一つの柱:「社会的包摂(インクルージョン)」という視点

このプログラムの最大の特徴は、前述した生産性向上への支援と同時に、「社会的包摂(インクルージョン)の促進」を明確に掲げている点です。社会的包摂とは、性別、年齢、国籍、障がいの有無などに関わらず、あらゆる人々が組織や社会に参加し、その能力を発揮できる状態を目指す考え方です。具体的には、女性や若者、障がいを持つ人々などが働きやすい職場環境の整備や、公正な雇用機会の提供などが挙げられます。

一見すると、生産性向上と社会的包摂は、直接的な関係がないように思えるかもしれません。しかし、今日の企業経営において、両者は密接に結びついています。例えば、深刻化する人手不足への対応策として、これまで活躍の機会が限られていた多様な人材が働き続けられる職場を作ることは、生産能力を維持・向上させる上で不可欠です。また、多様な視点が集まることで、新たな製品開発のアイデアや、業務プロセスの革新的な改善案が生まれる可能性も高まります。

自社の活動を世界的な文脈で捉え直す

UNDPのプログラムは、企業の経済的な成長と、社会的な責任を一体のものとして捉えています。生産活動を効率化し、利益を追求するだけでなく、そのプロセスにおいて、従業員や地域社会といったステークホルダーに対して、どのように貢献できるかを問いかけているのです。

これは、近年注目されるESG(環境・社会・ガバナンス)経営や、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献といった大きな潮流とも合致するものです。自社で行っているカイゼン活動や人材育成、サプライヤーとの関係構築といった日々の業務が、単なるコスト削減や品質向上だけでなく、より広い社会的価値の創造に繋がっているという視点を持つことは、従業員のエンゲージメント向上や、企業のブランド価値向上にも貢献するでしょう。

日本の製造業への示唆

このUNDPの取り組みから、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。

1. 生産性向上と働きがい改革の統合
5Sやカイゼン活動といった伝統的な生産性向上の取り組みに、「働きやすさ」や「安全」「多様な人材の活躍」といった視点を明確に組み込むことが重要です。例えば、「作業のムダ取り」が、結果として特定の従業員への負担を軽減し、より多くの人がその作業を担えるようになる、といった繋がりを意識することで、活動の価値はさらに高まります。

2. 人材不足への本質的な対応
人手不足は、単に人を集めるだけでは解決しません。女性、高齢者、外国人、障がいを持つ方など、多様な背景を持つ人材が、それぞれの能力を最大限に発揮できるような職場環境(フレキシブルな勤務体系、多言語対応、バリアフリーな設備など)を整備することが、持続的な成長の基盤となります。これは守りの施策であると同時に、イノベーションを生む攻めの投資でもあります。

3. サプライチェーン全体での価値創造
自社の取り組みだけでなく、サプライヤーに対しても公正な取引を徹底し、人権や労働環境への配慮を求めることが、グローバル市場での信頼を獲得する上で不可欠になっています。自社の成長が、取引先や地域社会の持続可能性にも貢献するという、より大きな視点を持つことが、これからの製造業には求められます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました