海外のエネルギー関連企業の事業内容から、日本の製造業が今後目指すべき方向性が見えてきます。それは、単なる製品の製造・販売に留まらず、顧客の操業に深く関与し、データに基づいた最適化ソリューションを提供する「サービス化」への転換です。
「モノづくり」から「コトづくり」への潮流
海外のエネルギー機器・サービス業界に関する記事の一節に、示唆に富む記述がありました。その企業は、機器の提供だけでなく、「生産管理、試験、そして貯留層情報の取得・分析と最適化ソリューションといった海中サービス」を手掛けていると紹介されています。これは、単に製品(モノ)を売るのではなく、顧客の価値創造プロセス(コト)に直接貢献する事業モデルへのシフトを明確に示しています。
日本の製造業においても、製品の性能や品質で差別化を図ることは依然として重要ですが、それだけでは持続的な競争優位を保つことが難しくなっています。顧客が本当に求めているのは、製品そのものではなく、製品を使って得られる成果、すなわち生産性の向上やコスト削減といった課題解決です。エネルギー業界の例は、まさにそのニーズに応える形で事業が進化していることを物語っています。
データ活用による付加価値創出
特に注目すべきは、「貯留層情報の取得・分析と最適化ソリューション」という部分です。これは、自社が提供する機器やセンサーを通じて顧客の現場からデータを収集し、それを専門的に分析することで、顧客自身も気づいていないような改善点や効率化策を提案する、高度なソリューション提供の姿です。
これは、昨今言われる「製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)」や「サービタイゼーション」の具体的な一例と捉えることができます。例えば、工作機械メーカーが機械の稼働データを遠隔監視し、刃物の交換時期や故障の予兆を知らせる予知保全サービスなどがこれにあたります。自社製品をプラットフォームとしてデータを収集・活用し、顧客の操業を最適化するパートナーとなることが、新たな価値創出の鍵となります。
現場の知見とデジタル技術の融合
「海中サービス」という言葉が示すように、こうした高度なソリューションは、過酷な現場環境への深い理解と、そこで培われた専門技術(OT: Operational Technology)なくしては成り立ちません。最新のITやデータ分析技術を導入するだけでなく、長年現場で培ってきたノウハウや「匠の技」といった暗黙知を、いかにデジタル技術と融合させていくかが重要になります。
日本の製造業は、高品質な製品を生み出す優れた現場力を持っています。この強みを活かし、製品のライフサイクル全体を通じて顧客に寄り添い、データに基づいたインテリジェントなサービスを提供していくことで、新たな事業の柱を構築できる可能性を秘めていると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の記事から、日本の製造業が今後の事業を考える上で、以下の点が重要な示唆として挙げられます。
1. 事業領域の再定義:
自社の事業を「製品を製造・販売する」ことと捉えるのではなく、「自社製品を通じて顧客の課題を解決する」ことと再定義することが求められます。製品のライフサイクル全体にわたるサービス提供を視野に入れるべきです。
2. データ活用の深化:
製品にIoTセンサーを組み込むなどして、顧客の現場から得られる稼働データを積極的に収集・分析する体制を構築することが重要です。これにより、予知保全、稼働率向上、品質改善といった具体的な価値を顧客に提供できます。
3. サービス提供体制の構築:
高度なサービスを提供するためには、従来の開発・製造・営業といった組織体制の見直しが必要になる場合があります。データサイエンティストや、顧客の現場に深く入り込むフィールドエンジニアといった専門人材の育成・確保も課題となるでしょう。


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