PCおよびマザーボード大手のASUSが、主要部品であるDRAMの自社製造を検討している可能性が報じられました。この動きは、世界的な半導体不足とサプライチェーンの混乱が、最終製品メーカーの経営戦略に与える影響の大きさを示唆しています。
報道の概要と背景
台湾のPC・コンポーネントメーカーであるASUSが、グラフィックカードやマザーボードの基幹部品であるDRAM(記憶用半導体)の自社製造に乗り出す可能性がある、との観測が浮上しています。この報道は、あくまで現時点では「噂」の段階ですが、製造業のサプライチェーン戦略を考える上で非常に興味深い動きと言えます。
この背景には、言うまでもなく近年続いている世界的な半導体不足と、それに伴うサプライチェーンの混乱があります。特定のサプライヤーから部品を調達している場合、その供給が滞れば自社の生産ラインは停止を余儀なくされます。部品一つが足りないだけで最終製品が出荷できなくなるという経験は、多くの製造現場が共有する悩みでしょう。ASUSのような巨大メーカーにとっても、主要部品の安定調達は事業継続の生命線であり、その確保が喫緊の経営課題となっていることが窺えます。
「川上」への展開、垂直統合の難しさ
最終製品の組立メーカーが、部品製造という「川上」の領域に進出する動きを「垂直統合」と呼びます。今回のASUSの検討は、まさにこの垂直統合によって供給網のリスクをコントロールしようという試みと捉えることができます。自社で部品を製造できれば、外部の供給状況に左右されることなく、安定した生産計画を立てることが可能になります。
しかし、DRAMの製造は、PCの組立とは全く異なる次元の技術と投資を必要とします。半導体製造には、クリーンルームを備えた巨大な工場(ファブ)の建設に数千億円から兆円単位の設備投資が求められます。また、ナノメートル単位の微細加工技術や材料工学、高度な品質管理など、長年の蓄積が必要な専門知識の塊です。そのため、ASUSがゼロからDRAM事業を立ち上げるというのは現実的ではなく、もし実行に移すのであれば、既存の半導体メーカーの買収や、特定のファウンドリ(半導体受託製造企業)との長期的な大型契約といった形が考えられます。
単なる安定調達に留まらない戦略的意義
この動きは、単に部品の安定調達という守りの側面だけではありません。もし自社で、あるいは自社の意向を強く反映できる形でDRAMを製造できれば、市場の汎用品を使うのではなく、自社のマザーボードやグラフィックカードの性能を最大限に引き出す、専用設計のメモリを開発することも可能になります。これは、他社製品との差別化を図り、製品競争力を高めるという攻めの戦略にも繋がり得ます。
大手自動車メーカーがバッテリーや半導体の内製化・共同開発に踏み切っているように、製品の心臓部となる重要部品を自社の管理下に置くことは、サプライチェーンの安定化と製品開発の主導権確保という両面で、今後の製造業における重要な戦略となりつつあるのかもしれません。
日本の製造業への示唆
今回のASUSの事例(たとえ現時点では噂であったとしても)は、日本の製造業にとっても示唆に富んでいます。自社の事業を振り返り、以下の点を再確認する良い機会と言えるでしょう。
要点
- サプライチェーンの脆弱性評価: 特定の国や企業に依存している重要部品はないか、改めて自社の供給網のリスクを洗い出す必要があります。特に「シングルソース(一社購買)」となっている部品は、供給途絶のリスクが極めて高いと言えます。
- 垂直統合の現実的な検討: 内製化は供給網を安定させる究極の選択肢ですが、莫大な投資と技術的ハードルを伴います。自社のコア技術や事業規模と照らし合わせ、その実現可能性を冷静に分析することが不可欠です。
- 代替戦略の重要性: 全てを内製化することは非現実的です。代替案として、複数社から購入する「マルチソース化」の推進、設計変更による代替部品の採用、主要サプライヤーとの関係を強化し、共同開発や長期契約を結ぶといった多面的なアプローチが求められます。
実務への示唆
今回の報道は、グローバルなサプライチェーンがいかに不安定なものか、そしてその影響が最終製品メーカーの根幹をいかに揺るがすかを改めて浮き彫りにしました。自社の調達部門、設計部門、生産部門が連携し、「どの部品が止まると事業が止まるのか」という視点でサプライチェーン全体を俯瞰し、より強靭(レジリエント)な供給網を構築していくことが、今後の持続的な成長に向けた重要な経営課題となるでしょう。


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