米国の投資情報メディアが、注目すべき製造業として5社を挙げました。本記事では、これらの企業がなぜ高く評価されているのかを分析し、その事業戦略や強みから日本の製造業が学びうる実務的な視点を解説します。
はじめに:投資家が注目する製造業の顔ぶれ
米国の投資情報サイト「MarketBeat」が、注目すべき製造業株として5つの企業をリストアップしました。選ばれたのは、TSMC(台湾積体電路製造)、アプライド・マテリアルズ、メドライン、ジョンソンコントロールズ、フィリップス66です。これらは半導体から医療、ビル設備、エネルギーまで多岐にわたる業種ですが、いずれも各分野で高い競争力を持つ企業です。投資家向けの選定ではありますが、その背景には、我々製造業の実務者にとっても参考となる、確固たる事業基盤や戦略的な取り組みが存在します。
各社の事業概要と強みの分析
TSMC(台湾積体電路製造)
半導体の受託製造(ファウンドリ)で世界最大手の企業です。自社で設計を行わず、製造に特化するというビジネスモデルを確立し、最先端の微細化技術で他社を圧倒しています。特定の技術領域に経営資源を集中投下し、グローバルな分業体制の中で不可欠な存在となることで、極めて高い収益性を実現しています。日本の熊本での工場建設も進んでおり、その動向は国内のサプライチェーンにも大きな影響を与えます。
アプライド・マテリアルズ(Applied Materials)
世界トップクラスの半導体製造装置メーカーです。TSMCのような半導体メーカーを顧客とし、彼らが次世代の半導体を製造するために必要な装置を開発・提供しています。この企業の強みは、単に装置を販売するだけでなく、顧客と密接に連携し、材料科学やプロセス技術といった基礎的な領域から共同で技術開発を進める点にあります。まさに、半導体産業のエコシステムの中心を担う存在と言えるでしょう。
メドライン・インダストリーズ(Medline Industries)
手術用手袋やガウンといった医療用品から高度な医療機器まで幅広く手掛ける、米国の非公開企業です。パンデミックを経て、医療分野におけるサプライチェーンの安定性や品質管理の重要性は改めて浮き彫りになりました。規制が厳しく、高い信頼性が求められる市場において、安定した製品供給網を構築・維持している点が、事業の根幹を支えています。
ジョンソンコントロールズ(Johnson Controls International)
主にビル向けの空調(HVAC)やセキュリティ、エネルギー管理システムなどを提供しています。近年は、建物のスマート化や省エネルギー化、脱炭素化といった社会的な要請を事業機会と捉え、IoT技術を活用したソリューション提供に力を入れています。これは、従来の「モノ売り」から、運用サービスやコンサルティングを含む「コト売り」へと事業モデルを転換させている好例です。
フィリップス66(Phillips 66)
石油精製や石油化学製品を手掛ける米国のエネルギー企業です。一見すると伝統的な産業ですが、同社は再生可能燃料への投資や、より高付加価値な特殊化学製品への事業ポートフォリオのシフトを進めています。成熟した市場環境の中で、既存事業の強みを活かしながら、将来の環境変化を見据えて事業の再構築を戦略的に進めている点が注目されます。
日本の製造業への示唆
今回取り上げられた5社から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたりますが、特に以下の3点に要約できるでしょう。
1. 専門領域における圧倒的な競争力の構築
TSMCやアプライド・マテリアルズに見られるように、自社が戦うべき領域を明確に定め、そこに経営資源を集中させ、他社が容易に追随できない技術的優位性やビジネスモデルを築くことの重要性です。グローバルな競争環境においては、「何でもできる」ことよりも、「これだけは負けない」という核となる強みを持つことが事業の安定につながります。
2. 社会的課題を事業機会と捉える視点
ジョンソンコントロールズの脱炭素ソリューションのように、環境問題や省エネルギーといった社会全体の大きな潮流を、単なるコスト要因や規制として捉えるのではなく、新たな付加価値を生み出す事業機会として捉える視点が求められます。自社の技術や製品が、どのような社会課題の解決に貢献できるかを問い直すことが、新たな成長の糸口となります。
3. 変化に対応するための事業ポートフォリオ変革
フィリップス66の事例は、成熟産業に身を置く多くの日本企業にとって示唆に富んでいます。市場が成熟あるいは縮小していく中で、既存の技術や資産をどのように活用し、将来性のある新たな領域へ事業の軸足を移していくか。中長期的な視点に立った、戦略的な事業の再構築は、持続的な成長のために不可欠です。

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