オランダ造船大手IHCに学ぶ、個別受注生産のDX:統合生産管理プラットフォームが拓く未来

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オランダの造船・海洋機器大手Royal IHC社は、専門ソフトウェア企業Floorganise社と協業し、複雑な造船プロジェクトの生産管理を高度化する取り組みを進めています。本記事では、この事例をもとに、日本の個別受注生産型の製造業が学ぶべきDXの要諦を解説します。

背景:造船業における生産管理の複雑性

造船業に代表される個別受注生産(ETO: Engineer-to-Order)は、その性質上、プロジェクト管理と生産管理が極めて複雑になります。一つひとつの製品が顧客の要求に応じた一品ものであるため、設計変更は頻繁に発生し、多数の部品と複雑な工程が絡み合います。このような環境下では、各工程の進捗状況やリソース(人員、設備)の負荷状況を正確に把握し、計画通りにプロジェクトを遂行することは容易ではありません。日本の製造現場でも、Excelや部門ごとに最適化された個別の管理ツールに依存し、工場全体の状況を俯瞰的に把握することが困難になっているケースは少なくないでしょう。

Royal IHC社とFloorganise社の協業

こうした課題に対し、オランダの造船・海洋機器大手であるRoyal IHC社は、生産管理ソフトウェアを専門とするFloorganise社と提携し、新たな解決策を模索しています。両社は、造船所の複雑なバリューチェーン全体にわたり、効果的なプロジェクト管理と生産管理を実現するための基盤となるプラットフォームを構築・導入しました。この取り組みの核心は、単なるツールの導入に留まらず、生産計画、リソース計画、現場の進捗管理、能力評価といった生産管理に必須の機能をプラットフォームに「組み込む(embed)」ことで、標準化された効率的な業務プロセスを定着させようとしている点にあります。

統合プラットフォームがもたらす価値

このプラットフォームは、設計から資材調達、各製造工程、最終組立までの全プロセスを統合的に管理することを目指しています。具体的には、以下のような価値をもたらすことが期待されます。

まず、プロジェクト全体の進捗状況がリアルタイムに可視化されることです。これにより、計画と実績の乖離を早期に検知し、迅速な対策を講じることが可能になります。現場の作業者はタブレット端末などを用いて作業の開始・完了を報告し、その情報が即座に全体の計画に反映される仕組みは、管理工数を削減しつつ、情報の鮮度と精度を飛躍的に向上させます。

次に、リソースの最適配分です。各工程の負荷状況や人員のスキルセット、設備の稼働状況といったデータを一元管理することで、ボトルネックとなっている工程を特定し、応援人員の派遣や生産計画の調整をデータに基づいて判断できるようになります。これにより、リソースの遊休化を防ぎ、工場全体の生産性を最大化することができます。

そして、部門間の連携強化も大きな利点です。設計、生産、調達といった各部門が同じプラットフォーム上で最新の情報を共有することで、情報のサイロ化を防ぎ、スムーズな連携を促進します。例えば、設計変更が発生した場合でも、その影響が製造現場や調達部門に迅速に伝達され、手戻りや仕様間違いといった無駄を未然に防ぐことにつながります。

日本の製造業への示唆

Royal IHC社のこの取り組みは、日本の製造業、特に同様の課題を抱える個別受注生産型の企業にとって、多くの示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。

第一に、DXは単なるデジタルツールの導入ではなく、業務プロセスの標準化とセットで推進する必要があるという点です。優れたプラットフォームも、それを活用する業務プロセスが確立されていなければ真価を発揮できません。IHC社の事例は、システムに業務のベストプラクティスを「組み込む」というアプローチの重要性を示しています。

第二に、「見える化」の先にあるデータ駆動型の工場運営を目指すことの重要性です。進捗を可視化するだけでなく、収集したデータを分析し、将来の計画精度向上やリソース配分の最適化といった具体的な改善活動につなげることが、競争力強化の鍵となります。

第三に、特定業種に特化した専門的なソリューションを外部から積極的に取り入れるという選択肢です。自社のリソースのみで全てのシステムを内製化するのではなく、業界の知見が凝縮されたパッケージやプラットフォームを活用することで、迅速かつ効果的にDXを推進できる場合があります。

日本の製造業が持つ高い現場力や品質管理能力に、こうしたデータに基づいた統合的な管理手法を組み合わせることで、より一層の競争力強化が期待できるのではないでしょうか。このオランダの事例は、そのための具体的な道筋の一つを示していると言えるでしょう。

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