ベトナム農業のDX化に学ぶ、サプライチェーンにおけるトレーサビリティの新たな潮流

global

ベトナムの主要な野菜・花卉産地であるラムドン省では、FTA(自由貿易協定)の活用による輸出拡大に向け、生産管理のデジタル化が加速しています。この動きは、日本の製造業がグローバルなサプライチェーンを管理する上で、品質保証やトレーサビリティの重要性を再認識させる示唆に富んでいます。

ベトナム・ラムドン省の取り組み:輸出市場を見据えた品質管理

ベトナムの主要な農業地域であるラムドン省は、野菜や花卉の輸出競争力を高めるため、新たな取り組みを進めています。特に、欧州連合(EU)などとのFTA(自由貿易協定)を最大限に活用し、厳しい基準を持つ市場へのアクセスを拡大することを目指しています。その鍵となるのが、輸出先が求める高いレベルの食品安全要件を満たすための、生産プロセスの透明化と管理体制の強化です。

「栽培地域コード」とデジタル技術によるトレーサビリティ確保

この取り組みの中核をなすのが、「栽培地域コード」の付与と、生産管理へのデジタル技術の導入です。栽培地域コードとは、どの農地で製品が栽培されたかを特定するための識別番号であり、製品の「出自」を明確にするものです。我々の製造業で言えば、材料や部品のロット番号管理や、個々の製品に付与されるシリアル番号の考え方に近いものと言えるでしょう。

さらに、このコードと連携してデジタル技術を活用することで、種まきから栽培、収穫、出荷に至るまでの全工程の履歴データを記録・管理することが可能になります。これにより、万が一品質上の問題が発生した場合でも、迅速に原因を特定し、影響範囲を限定することができます。これは、単に規制に対応するだけでなく、サプライチェーン全体の信頼性を高めるための重要な基盤となります。

グローバル基準への対応が競争力の源泉に

ラムドン省の事例が示しているのは、トレーサビリティの確保が、もはや単なるコストや管理上の負担ではなく、グローバル市場における競争力の源泉となっているという事実です。製品の生産履歴が明確で、安全性がデータによって裏付けられていることは、バイヤーからの信頼を獲得し、付加価値を高める上で不可欠な要素となっています。

この動きは、食品業界に限りません。例えば、欧州で導入が進むバッテリー規則やCBAM(炭素国境調整メカニズム)のように、製品のライフサイクル全体にわたる環境負荷データの提出が求められるなど、製造業においてもサプライチェーン全体の透明性確保は避けて通れない課題です。原材料の調達から生産、廃棄に至るまでの情報を追跡できる体制を構築することが、今後の事業継続の前提条件となりつつあります。

日本の製造業への示唆

このベトナム農業の事例は、日本の製造業にとっても多くの実務的な示唆を与えてくれます。以下に要点を整理します。

1. サプライチェーン上流の可視化の重要性
自社工場内の管理だけでなく、原材料や部品を供給するサプライヤーが、どのような管理体制を敷いているかまで把握することの重要性が増しています。特に海外の新規サプライヤーを選定する際には、トレーサビリティを確保する仕組みの有無が、コストや品質と同等に重要な評価項目となるでしょう。

2. トレーサビリティは「守り」から「攻め」の品質保証へ
従来、トレーサビリティはリコール発生時の迅速な対応といった「守り」の側面で語られることが中心でした。しかし今後は、製品の品質や安全性を客観的なデータで証明し、顧客の信頼を勝ち取るための「攻め」のツールとしての側面がより重要になります。

3. DXは目的ではなく手段であることの再確認
ベトナムの事例では、「輸出先の安全基準を満たす」という明確な目的のためにデジタル技術が活用されています。自社でDXを推進する際も、単にデータを収集するだけでなく、「何のために、どのデータを、どのように活用するのか」という目的を常に明確にすることが、実効性のある投資につながります。

4. 新興国サプライヤーの進化への注視
ベトナムのような国々が、デジタル技術を積極的に活用し、品質管理やトレーサビリティのレベルを急速に向上させている事実は注目に値します。今後の調達戦略においては、コスト競争力だけでなく、こうしたグローバル基準への対応能力という新たな観点から、サプライヤーを再評価していく必要があると考えられます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました