インドの産業界の重鎮が、国家の製造業における最優先課題として「重要鉱物(クリティカルミネラル)」の確保を挙げました。この動きは、EVや半導体など先端分野のサプライチェーンを構築する上で、日本の製造業にとっても無視できない重要な変化を示唆しています。
インド産業界が示す、製造業の新たな優先事項
インドの金属・合金大手、Indian Metal and Ferro Alloys社のマネージング・ディレクターであるSubhrakant Panda氏は、近年の発言で「重要鉱物は、国家にとって主要な重点分野である」と述べ、その戦略的重要性を強調しました。これは単なる一企業の意見に留まらず、インドが国を挙げて製造業の高度化を目指す上で、資源確保を根幹に据えようとしている姿勢の表れと見てよいでしょう。
背景にある経済安全保障と産業育成
インドが「重要鉱物」を重視する背景には、二つの大きな狙いがあると考えられます。一つは、EV(電気自動車)や再生可能エネルギー設備、半導体といった、将来の成長を担う先端産業の国内育成です。これらの産業は、リチウム、コバルト、ニッケル、レアアースといった重要鉱物なくして成り立ちません。部品や素材を輸入するだけでなく、その源流である資源から国内でサプライチェーンを構築しようとする強い意志が感じられます。
もう一つは、経済安全保障の観点です。特定の国に資源を依存する状態は、地政学的なリスクに直結します。インドは、資源の安定確保を通じてサプライチェーンの強靭化を図り、国際社会における自国の産業競争力を高めることを目指しているのです。これは、資源の多くを輸入に頼る日本にとっても、他人事ではありません。
日本の製造現場への影響
インドのような資源国が、自国産業の育成を優先し、資源の囲い込みとも取れる動きを強めることは、国際的な資源獲得競争の激化を意味します。日本の製造業、特に自動車、電子部品、特殊鋼といった分野では、これらの重要鉱物は生産に不可欠な要素です。
これまで通りの調達ルートやコストが維持できなくなる可能性も視野に入れなければなりません。調達先の多角化はもちろんのこと、代替材料の研究開発や、使用済み製品からの資源回収(リサイクル)技術の高度化といった、より本質的な対策の重要性が一層高まっています。現場レベルでは、材料の歩留まり向上や使用量削減といった地道な改善活動も、コスト管理やリスク対応の観点から再評価されるべきでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のインドの動向は、日本の製造業に対して以下の重要な示唆を与えています。
1. サプライチェーンの再点検と多様化:
自社の製品に使われている重要鉱物をリストアップし、その調達が特定の国や地域に偏っていないか、改めて評価することが急務です。インドをはじめとする新たなパートナー候補との関係構築を含め、調達先の多角化を具体的に進める必要があります。
2. 技術開発による資源リスクの低減:
長期的には、希少な資源への依存度そのものを下げることが競争力の源泉となります。代替材料の開発や、使用量を削減する設計技術、そして国内での資源循環を可能にする高度なリサイクル技術への投資を、経営戦略の中心に据えるべき時期に来ています。
3. 国際情勢と資源政策の継続的な注視:
各国の資源政策は、国際情勢と密接に連動して変化します。インドのような大国の動向を継続的に注視し、自社の調達戦略や生産計画に迅速に反映させるための情報収集・分析体制を強化することが、不確実な時代を乗り切る上で不可欠です。


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