海外工場の設備火災事例に学ぶ、事業継続を脅かすリスクへの備え

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先日、米国の製造工場で生産設備が原因とみられる火災が発生し、多額の損害が報じられました。この一見遠い国の出来事は、日本の製造現場にとっても決して対岸の火事ではなく、設備管理とリスク対策の重要性を改めて問いかけるものです。

海外事例の概要

米国ノースカロライナ州シャーロットにある製造工場で火災が発生し、消防当局の調査によると、その原因は製造機械からの偶発的な出火であったと報告されています。この火災による損失額は、約69万ドル(日本円にして約1億円弱)にのぼると試算されており、事業への影響の大きさがうかがえます。幸いにも人的被害の報告はありませんでしたが、一つの設備トラブルが甚大な経済的損失につながる可能性を明確に示しています。

製造機械に潜む火災リスク

「製造機械からの出火」と聞くと、特殊な状況を想像するかもしれませんが、実際にはあらゆる工場に潜む身近なリスクです。主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

電気系統のトラブル: 制御盤や配線のショート、過負荷による発熱、経年劣化による絶縁不良などは、最も一般的な原因の一つです。特に古い設備では、定期的な点検や部品交換が欠かせません。

機械的な要因: 軸受(ベアリング)の焼き付きや潤滑油切れによる摩擦熱の増大、機械摺動部からの発熱なども、周囲の可燃物への引火原因となり得ます。

可燃物の存在: 切削油や作動油、洗浄剤といった引火性液体はもちろんのこと、加工時に発生する粉塵(特にマグネシウムやアルミニウム、樹脂など)や、機械周辺に堆積した油を含んだホコリなども、わずかな火種で着火・延焼する危険性をはらんでいます。

これらの要因は単独で発生するよりも、複合的に絡み合って火災に至るケースが少なくありません。例えば、劣化した配線から発生した火花が、清掃不足で堆積した油汚れに引火するといった具合です。

「偶発的」火災を防ぐための視点

今回の事例は「偶発的(unintentional)」とされていますが、これは「予見・予防が不可能だった」という意味ではありません。偶発的な事故の多くは、日々の管理活動によってその発生確率を大幅に下げることができます。

その基本となるのが、言うまでもなく日常の保守・点検活動です。定められた周期で点検を行う予防保全(PM)はもちろんのこと、振動や温度の異常を監視する予知保全(PdM)の取り組みも有効です。しかし、最も重要なのは、現場作業者が日常的に行う「清掃・点検」に他なりません。油漏れはないか、異音や異臭はしないか、配線に損傷はないか。こうした「気づき」の積み重ねが、重大な事故を未然に防ぎます。

また、整理・整頓・清掃・清潔・躾を基本とする5S活動の徹底は、火災リスクの低減に直結します。機械周りに可燃物を放置しない、油汚れはこまめに拭き取るといった地道な活動が、工場の安全性を根底から支えるのです。

損害額から考える事業継続への影響

約1億円という損害額は、焼失した設備や建屋の修復費用といった直接的な損失です。しかし、工場火災がもたらす影響はそれだけにとどまりません。生産停止による売上機会の損失、代替生産のコスト、顧客への納期遅延による信用の失墜、そしてサプライチェーン全体への波及など、目に見えない間接的な損害は、直接損害をはるかに上回る可能性があります。

火災は、単なる物的損害ではなく、企業の事業継続そのものを脅かす重大な経営リスクです。自社のBCP(事業継続計画)において、工場火災を具体的なシナリオとして想定し、被害を最小限に抑えるための対策や、迅速な復旧に向けた手順を明確にしておくことが不可欠です。

日本の製造業への示唆

今回の海外事例から、我々日本の製造業が学ぶべき要点と実務への示唆を以下に整理します。

要点:

  • 製造機械は、電気的・機械的要因や周辺環境との組み合わせにより、常に火災の原因となりうる。
  • 「偶発的」な火災の多くは、日常の保守・点検や5S活動といった基本的な管理の徹底によって予防可能である。
  • 工場火災は、直接的な資産損失に加え、機会損失や信用の失墜といった間接的な損害が大きく、事業継続を揺るがす経営リスクである。

実務への示唆:

  • 自社の生産設備、特に老朽化した設備や熱・火花を発生させる工程について、火災リスクアセスメントを再度実施する。
  • 設備の日常点検や定期メンテナンスの基準を見直し、形骸化していないか現場で確認する。
  • 消火器や消火栓、スプリンクラー等の消防設備の設置場所と使用方法について、全従業員を対象とした定期的な周知と訓練を行う。
  • BCP(事業継続計画)のシナリオに工場火災を加え、主要設備の被災を想定した際の代替生産や顧客対応、サプライヤー連携などの具体的な手順を検討・文書化しておく。

日々の生産活動の中に潜むリスクを改めて認識し、地道な管理を継続していくことこそが、企業の持続的な成長と安全を守るための礎となります。

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