先日、米国で子供向け安全包装(チャイルド・レジスタント包装)の基準に違反したとして、複数の製品がリコールされる事案がありました。この事例は、海外市場に製品を供給する日本の製造業にとっても、規制遵守と品質保証のあり方を再点検する上で重要な示唆を与えています。
概要:米国で発生した包装規則違反によるリコール
米国の消費者安全当局は、特定製品の包装が「子供向け安全包装(Child-Resistant Packaging)」の連邦基準を満たしていないとして、製造業者にリコールを命じました。この基準は、幼い子供が医薬品や化学物質などの有害な内容物を容易に取り出せないように設計することを義務付けるものです。今回のリコールは、製品そのものの欠陥ではなく、それを保護・収容する「包装」が原因で発生したという点が、我々製造業に携わる者にとって注目すべき点です。
見過ごされがちな「包装」の重要性
製品の機能や性能、安全性の設計に注力する一方で、包装の仕様、特に輸出先の法規制が関わる要件については、見落としや確認漏れが発生するリスクが常に存在します。チャイルド・レジスタント包装は、単に「子供が開きにくい」というだけでなく、一方で高齢者などは比較的容易に開封できること(シニア・フレンドリー)も求められるなど、詳細な技術要件が定められています。こうした規格を正確に理解し、設計仕様に落とし込むことが不可欠です。
なぜ、このような問題が発生するのか
今回の事案のような問題は、いくつかの要因が複合的に絡み合って発生すると考えられます。例えば、設計開発部門における輸出先規制に関する情報収集の不足や解釈の誤り、あるいは、包装材を供給するサプライヤー側での仕様不適合や品質管理の不備などが挙げられます。また、コストダウンを目的として包装材のサプライヤーを変更した際に、新旧サプライヤー間での仕様の引き継ぎが不十分であった可能性も否定できません。いずれにせよ、自社の管理範囲だけでなく、サプライチェーン全体を視野に入れた品質保証体制が問われていると言えるでしょう。
日本の製造現場における管理のポイント
日本の製造業が海外の規制に対応する上では、部門間の連携が鍵となります。まず、法規・規格を調査する部門(品質保証部や法務部など)が最新の情報を正確に入手し、それを設計開発部門に確実に伝達するプロセスが必要です。設計部門は、その要求仕様を製品図面や包装仕様書に具体的に落とし込みます。そして購買・調達部門は、その仕様書に基づいてサプライヤーを選定・管理し、製造部門は受け入れた包装材が仕様通りであることを確認した上で生産ラインに投入する。この一連の流れのどこか一つでも連携が途切れれば、規制不適合のリスクは増大します。特に、設計変更やサプライヤー変更といった「変化点」における管理は、細心の注意を払うべきです。
日本の製造業への示唆
今回の米国のリコール事例から、日本の製造業が改めて認識すべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
1. 輸出先規制の継続的な監視と正確な理解:
製品を輸出する国の法規制や安全基準は、常に変更される可能性があります。特定の担当者や部門任せにせず、組織として最新の規制動向を継続的に監視し、その要求事項を正確に理解する体制を構築することが不可欠です。外部の専門機関やコンサルティングサービスを活用することも有効な手段となります。
2. サプライチェーン全体を対象とした品質保証:
製品本体だけでなく、包装材や付属品といった購入部品に対しても、自社製品の一部として品質保証の対象と捉えるべきです。サプライヤーの選定基準を明確にし、定期的な監査や受け入れ検査を徹底することで、サプライヤー由来の不適合リスクを低減させることができます。
3. 設計・開発段階での安全性とコンプライアンスの作り込み:
品質は工程で作り込むものですが、規制遵守や製品安全といった要素は、後工程での検査に頼るのではなく、設計・開発の源流段階で仕様に織り込むことが最も重要です。設計審査(デザインレビュー)の際に、法規制への適合性を必須のチェック項目として組み込むべきでしょう。
4. 部門横断での情報共有とプロセスの徹底:
規制に関する重要な情報が、特定の部門の中だけで留まってしまうことは大きなリスクです。設計、購買、製造、品質保証といった関連部門が、円滑に情報共有できる仕組みと、定められたプロセスを全員が遵守する組織文化を醸成していくことが、グローバル市場で信頼を維持するための基盤となります。


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