韓国のアルミニウム部品メーカーであるALUKOグループが、米国テネシー州に電気自動車(EV)用バッテリー部品の新工場を設立する計画を発表しました。これは、米国のインフレ削減法(IRA)を背景としたサプライチェーンの北米現地化が、素材・部品メーカーのレベルで本格化していることを示す動きです。
韓国企業による大規模な米国投資
韓国の製造業コングロマリットであるALUKOグループが、米国テネシー州ローダーデール郡に1億250万ドル(約150億円規模)を投じ、EV用バッテリー部品の製造拠点を新設することを明らかにしました。2025年の稼働を目指しており、100名以上の新規雇用を創出する計画です。興味深い点として、この新工場はタッパーウェア社の旧工場跡地を活用する「ブラウンフィールド投資」であり、迅速な立ち上げを目指していることが伺えます。
ALUKOグループは、アルミニウム押出材を主力とし、EVバッテリーモジュールケースやフレームなどを製造する企業です。今回の米国進出は、同国でEV用バッテリーの生産を拡大している韓国のバッテリーメーカー(LGエナジーソリューション、SKオン、サムスンSDIなど)への供給体制を現地で構築する狙いがあるものと考えられます。
背景にある米国の政策とサプライチェーン再編
この動きの背景には、米国のインフレ削減法(IRA)の影響が色濃く反映されています。IRAは、EV購入者への税額控除の条件として、バッテリー部品や重要鉱物の調達先を北米または米国の自由貿易協定(FTA)締結国に限定することを定めています。これにより、バッテリーセルメーカーだけでなく、そのサプライチェーンを構成する部品・素材メーカーに至るまで、生産拠点を北米へ移管する動きが不可避となっています。
韓国勢が先行して大規模な投資判断を行っている中、サプライヤーも追随せざるを得ない状況です。これは、完成車メーカーを頂点とした従来のサプライチェーン構造が、政策主導で急速に再編されている実態を示しています。顧客であるバッテリーメーカーの工場の近接地に進出することで、物流コストの削減やジャストインタイム供給への対応、さらには共同開発といった連携強化を図るという、極めて合理的な経営判断と言えるでしょう。
日本の製造業から見た考察
このニュースは、日本の自動車部品メーカーや素材メーカーにとっても対岸の火事ではありません。日系の完成車メーカーも米国でのEV生産を加速させており、サプライヤーに対して現地生産を求める声は今後ますます強まることが予想されます。特に、バッテリー関連の部品や素材を扱っている企業にとっては、北米での生産体制の有無が、将来の受注を左右する重要な要素となりつつあります。
また、ALUKOが旧工場跡地を活用する点は、実務的な観点から注目に値します。新規に土地を確保し工場を建設する「グリーンフィールド投資」に比べ、インフラが整備され、許認可の取得プロセスが簡素化できる可能性があるブラウンフィールド投資は、意思決定から生産開始までのリードタイムを大幅に短縮できます。グローバルな競争が激化する中、このような迅速な拠点設立の手法も、選択肢として検討すべきでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。
1. サプライチェーンの再構築と地政学リスクへの対応:
米国のIRAのような政策は、従来の効率性やコストを最優先したグローバルサプライチェーンの前提を覆すものです。主要市場の政策動向を常に監視し、自社の生産・供給体制を柔軟に見直す必要があります。特に北米市場で事業を継続・拡大するためには、部品レベルでの現地生産体制の構築が不可欠な経営課題となっています。
2. 投資判断の迅速化と実行力:
海外の競合企業は、大規模な投資に関する意思決定を迅速に行い、実行に移しています。環境変化のスピードに対応するためには、従来よりも速いサイクルでの経営判断が求められます。ブラウンフィールド投資の活用など、スピードを重視した選択肢も積極的に検討すべきです。
3. 顧客との連携強化:
今回のALUKOの動きは、主要顧客であるバッテリーメーカーの米国展開に追随する形です。自社の主要顧客がどのようなグローバル戦略を描いているかを正確に把握し、サプライヤーとしてどのように貢献できるかを提案・実行していく能動的な姿勢が、今後の取引関係を維持・強化する上で重要になります。


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