海外の求人情報に目を通すと、我々が慣れ親しんだ「生産管理(Production Management)」という言葉が、全く異なる文脈で使われていることに気づかされます。今回は、クリエイティブ業界の事例を参考に、製造業における生産管理の役割と今後の可能性について考察します。
異業種における「プロダクションマネージャー」の実態
先日、海外の人材紹介会社のウェブサイトで「プロダクションマネージャー」の求人情報が掲載されていました。しかし、その業務内容を見ると、製造業の常識とは大きく異なるスキルが求められていました。具体的には、「スタジオ予約システムや制作管理ツールの経験」「デジタルマーケティング、クリエイティブ制作、広告代理店業務への精通」といった項目が並んでいたのです。
これは、広告や映像、Webコンテンツなどの制作を手掛ける、いわゆるクリエイティブ業界における求人です。この業界でのプロダクションマネージャーは、プロジェクトの予算、スケジュール、人員、外部委託先などを管理し、企画から納品までを円滑に進める役割を担います。我々が工場で扱うのは設備や原材料ですが、彼らが管理するのはスタジオ、機材、そしてクリエイター個々の時間やスキルといった、有形無形の資源なのです。
製造業の「生産管理」との共通点と相違点
一見すると全く異なる仕事ですが、その本質には共通点があります。それは、限られたリソース(人、モノ、金、時間)を最適に配分し、定められた品質・コスト・納期(QCD)で最終的なアウトプットを生み出す、という点です。この目的は、製造業の生産管理と何ら変わりありません。
しかし、管理対象とプロセスの性質が異なります。製造業の生産管理は、多くの場合、MRP(資材所要量計画)に代表されるような、比較的定型化されたプロセスの流れを管理します。一方、クリエイティブ業界のそれは、案件ごとに内容が大きく異なるプロジェクト型の業務であり、不確実性の高い要素を柔軟に管理する能力が求められます。管理手法も、ガントチャートだけでなく、カンバン方式やアジャイル的なアプローチが用いられることも少なくありません。
なぜ、この違いを認識することが重要なのか
このような他業界との違いを認識することは、日本の製造業にとっていくつかの点で重要です。まず、グローバルな取引や協業において、「Production Management」という言葉の解釈にズレが生じるリスクを未然に防ぐことができます。自社の業務内容を説明する際には、言葉の背景にある文脈まで丁寧に伝える必要があるでしょう。
また、より重要な示唆は、自社の生産管理業務を見直すきっかけとなり得ることです。近年、製造業でもマスカスタマイゼーションやBTO(受注生産)のように、顧客ごとの個別仕様に対応するニーズが高まっています。このような流れは、従来の繰り返し生産の管理手法だけでは対応が難しく、むしろプロジェクト型の管理手法が有効な場面が増えてくる可能性があります。顧客からの仕様変更に柔軟に対応したり、開発部門と製造部門が一体となって短期間で新製品を立ち上げたりするプロセスは、まさにプロジェクトマネジメントそのものと言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、私たちは以下の点を学び、日々の業務に活かすことができると考えられます。
1. 言葉の定義と業務範囲の再確認
社内や取引先との間で使っている「生産管理」という言葉が、具体的にどの範囲の業務を指しているのかを改めて確認することが重要です。特に海外のパートナーと協業する際は、言葉の定義をすり合わせるひと手間が、後の誤解を防ぎます。
2. 業務プロセスの柔軟な見直し
自社の生産管理は、果たして現在の事業環境に最適化されているでしょうか。個別受注品や試作品の管理、生産準備プロセスなど、非定型的な業務に対して、IT業界やクリエイティブ業界で用いられるプロジェクトマネジメントの手法を取り入れることで、リードタイム短縮や手戻り削減に繋がる可能性があります。
3. 異業種の手法に学ぶ姿勢
DXの進展により、製造業においてもデータやソフトウェアといった無形資産の管理が重要性を増しています。他業界の優れた管理ツールや手法は、自社の課題解決のヒントの宝庫です。固定観念に囚われず、常に新しい知識を吸収し、自社の業務に取り入れられないか検討する姿勢が、これからの現場には不可欠と言えるでしょう。


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