産業ガス大手リンデCEO、製造業に「回復の兆し」を指摘 – 脱炭素化を事業機会と捉える視点

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世界的な産業ガス大手であるリンデ社のCEOが、世界経済の先行指標とも言われる製造業の動向について「回復の兆しが見える」との認識を示しました。短期的な市況回復に加え、脱炭素化という大きな潮流をいかに事業機会として捉えるか、その視点は日本の製造業にとっても示唆に富むものです。

産業ガス大手のトップが語る製造業の現在地

世界最大級の産業ガスメーカーであるリンデ社のCEO、サンジブ・ランバ氏が、米国の経済番組に出演し、製造業の市況について「本物の回復の兆し(real green shoots)が見られる」との見解を述べました。同氏は四半期決算や長期的な企業ビジョンについて語る中で、この認識を示した模様です。

リンデ社が供給する窒素や酸素、水素といった産業ガスは、半導体、自動車、鉄鋼、化学、医療といった幅広い産業の製造プロセスに不可欠なものです。そのため、同社の業績や経営トップの発言は、製造業全体の活動レベルを測る一種のバロメーターと見なすことができます。今回のランバ氏の発言は、一部の分野で底打ち感が見られ、緩やかな回復基調に入りつつあるという、マクロな視点からの観測と捉えることができるでしょう。

回復の背景と「脱炭素化」という事業機会

CEOが指摘する「回復の兆し」の具体的な要因は詳述されていませんが、世界的なサプライチェーンの正常化や、一部地域での設備投資の回復などが背景にあるものと推察されます。しかし、ここで我々がより注目すべきは、同氏が同時に言及した「脱炭素化(decarbonization)」というキーワードです。

リンデ社は、クリーンなエネルギー源として期待される水素の製造・供給や、工場などから排出されるCO2を回収・貯留するCCUS技術において世界をリードする企業の一つです。同社にとって、世界の脱炭素化への動きは、規制強化という側面以上に、極めて大きな事業機会となります。製造業各社が環境規制への対応やカーボンニュートラル達成を目指す中で、同社の技術や製品への需要は必然的に高まるからです。

長期ビジョンに基づいた戦略の重要性

ランバ氏が「長期的な企業ビジョン(long-term company vision)」にも触れた点は重要です。目先の需要回復に一喜一憂するのではなく、脱炭素化のような不可逆的な大きな社会変化を見据え、自社の技術や事業をどう位置づけ、成長させていくか。この長期的な視点こそが、持続的な企業経営の鍵となります。

これは、日本の製造業にとっても他人事ではありません。省エネルギー化に向けた生産プロセスの改善、再生可能エネルギーの導入、あるいは自社製品のライフサイクル全体での環境負荷低減など、脱炭素化への取り組みは待ったなしの課題です。これを単なるコスト増と捉えるか、新たな付加価値や競争力を生み出す好機と捉えるかで、企業の未来は大きく変わってくるはずです。

日本の製造業への示唆

今回のリンデ社CEOの発言から、我々日本の製造業に携わる者が得るべき示唆を以下に整理します。

1. 大局的な市況の把握: 自社の業界だけでなく、リンデ社のような基礎資材を供給するグローバル企業の動向を注視することは、景気の大きな流れを掴む上で非常に有益です。サプライヤーや顧客のさらにその先にあるマクロな環境変化を、自社の事業計画に反映させる視点が求められます。

2. 脱炭素化の「機会」への転換: 環境対応を、規制遵守のための「守りの一手」と考えるだけでは不十分です。自社のコア技術を活かして省エネ性能の高い製品を開発したり、製造プロセスにおけるCO2排出量を削減する技術を新たなサービスとして提供したりするなど、「攻めの一手」として事業機会に転換する発想が不可欠です。

3. 長期視点での経営資源配分: 短期的な生産効率の改善も重要ですが、10年、20年先を見据えた技術開発や設備投資、そしてそれを支える人材育成にこそ、経営資源を重点的に配分すべきです。脱炭素化やデジタル化といった大きな潮流を乗りこなすための準備を、今から着実に進めていく必要があります。

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